FIBAアジア選手権2013――韓国代表 司令塔インタビュー【1】 [海外]

ヤン・ドングン 韓国代表 #6 蔚山モービス #6

16年ぶりの世界進出を目指す韓国代表の“魂”

「ヤン・ドングン」――勝負所の得点力とディフェンス力を持つ韓国の司令塔だ。誠実さとリーダーシップを備え、誰からも信頼される姿はまさに韓国代表の“魂”である。ジョーンズカップにて行ったインタビューでは「チーム作りの情熱」「日韓戦の心情」「世界に出たい思い」等あふれんばかりの思いを語ってくれた。アジア選手権に向けて、ライバル国のキャプテンに迫った。

インタビュー・文・写真/小永吉陽子  通訳・翻訳/朴 康子

◆写真左 ヤン・ドングン(180㎝、1981年生まれ、31歳/蔚山モービス)◆写真右 キム・テスル(180㎝、1984年生まれ、28歳/安養KGC)

韓国バスケットボール取材を通して見えたライバル国の実情
韓国代表司令塔インタビュー

韓国代表の司令塔 ヤン・ドングン&キム・テスルが語る
「アジア選手権にかける思い」「チーム作りの情熱」「日韓戦における心情」「KBLの実情」

 ワールドカップ出場権をかけたアジア選手権が開幕した。ここに韓国代表の司令塔、ヤン・ドングンとキム・テスルを紹介したい(以下、ヤンドングン、キムテスルと表記)。2人はタイプこそ違えどゲーム掌握力に長けた司令塔であり、韓国でポイントガードといえば、真っ先に名前があがるのはこの2人だ。

 ヤンドングンは誰もが認めるチームリーダー。ポジションはポイントガードというより、チームリーダーという言葉がふさわしい。どんな時でも決して手を抜かず、コートの内外で発揮するリーダーシップは「韓国の魂」といっていいほど。代表の監督であり、自チームの監督でもあるユ・ジェハク監督は「チームが優勝するために必要な選手」と全幅の信頼を寄せる。

 キムテスルはトッププレーヤーでありながらも「公益」勤務による兵役(※)によって、2年8ヶ月もの間コートに立てないという試練を味わった選手。競技から遠ざかっただけに再起は難しいと言われながらも、復帰した年にはチームを初優勝に導く活躍を見せ、昨年のロンドンオリンピック最終予選では、フルコートプレスとスピードを生かす新しい韓国の戦い方に可能性をもたらした。(※韓国の兵役制度では、国軍体育部隊の「尚武(サンム)」に入隊する以外は運動を続けることができない)

 アジア選手権を前にして韓国の司令塔にインタビューを行った理由は、今、ライバル国が一丸となってアジア選手権に向かっている現状を日本のバスケットボール界に伝えたかったからだ。この2年間、KBL、大学、U18代表と踏み込んで韓国バスケを取材してきた。個人的な話になるが、これまでも韓国バスケを好んでよく試合を見ていたのだが、シーズンを通してプロリーグを筆頭に様々なカテゴリーを取材したのは初めてのことだった。「なぜ、日本と同じような体格なのに、日本は韓国に及ばないのか。日本と韓国は何が違うのか」という疑問を解くためだった。

 日本は底辺の広い競技人口を持つ部活動を経て、トップリーグや実業団など、将来は様々な方向性に道がわかれる。韓国の場合は選ばれた選手によるエリート部活動から大学を経て、プロリーグ入団へと直結している。日韓のバスケ構造の違いを簡単に語れば、このような図式になろう。エリートコースを歩む選手たちのプライドの高さは日韓戦においても感じるものがあるが、取材を続けて一番衝撃だったのはKBLの過酷さだった。一歩踏み込んでシーズンを通して取材してみると、選手たちは休む暇もないという過酷な現状を知ることになった。

パワフルでアグレッシブなプレーが持ち味のヤンドングン(写真は2011年アジア選手権・イラン戦より)

 KBLは10月中旬~3月中旬までの約5ヶ月間でレギュラーシーズン54試合行い、その後1ヶ月間かけて、ほぼ一日おきにプレーオフを6強、セミファイナル、ファイナルと最大17試合を行う。6ヶ月で最大71試合行うために、週に3回は試合があり、終盤からプレーオフになると2日にいっぺんの試合開催も珍しくはない。昨シーズンはその間に「プロアマ最強戦」というプロとアマ(大学と軍隊)のトーナメント戦もあり、過密スケジュールに拍車がかかった。シーズン期間が同時期のJBLと比較すれば「42試合+プレーオフ最大8試合」の計50試合とは年間21試合もの差が出る。そして、年間最大71試合戦うためにはスタミナが必要であり、オフシーズンの練習量の多さが彼らを支えている。

 こうした過酷なスケジュールでも、選手たちは年俸アップのために体を張る。昨年、U18代表の高校生に取材したところ、将来のプロ入りを夢見て「一日に8~10時間は練習をする」という答えが返ってきた。その練習量の多さは代表でも変わらない。韓国代表のユ・ジェハク監督によれば、代表の練習は週に6日間で休みは日曜のみ。午前か午後のどちらかがウエイトトレーニングの日もあるが、3部練習の日もあり、夜間のシューティング練習は誰一人として欠かさないという。アジア選手権に向けてユ・ジェハク監督は「順位にはこだわっていないが、何がなんでもワールドカップのチケットを獲得する」と語気を強める。

 現在の日本代表の練習量は、4日間行って3日間休みのスケジュール。単純に練習量だけでは判断できないが、韓国のプレーの精度の高さは練習量から作られていることが読み取れる。もちろん、過密スケジュールの中でケガ人が多発することや、代表の活動期間が短いことなど、韓国にも問題点は数多くある。それでも、日常に行われるリーグでハードに鍛えられているからこそ、体格が日本人と似ている人種ながらも、国際大会での成績やバスケットボールの質に差が出るのではないだろうか、と感じている。

 ここに紹介する2人は、この2年間はプレーオフやファイナル進出、オリンピック予選等の代表活動、チームトレーニング等で十分な休養を取れていないという。そのため、ジョーンズカップではコンディショニング作りに大変苦労しており、万全には程遠い調子だった。そんな中でいかにして、韓国の特色である走る展開を作り、さらには中国、イランというアジアのトップ2と1次ラウンドから戦えるゲーム運営をしていくのか。アジア選手権での韓国の戦い方にはとても興味がある。

 このインタビューは、ジョーンズカップで韓国の休養日にあたる7月13日に行った。時間にして2人でみっちり3時間。練習見学もさせてもらった。取材を通して感じたことは、外から見ている韓国代表の印象そのままに、選手一人ひとりが「チーム一丸」で戦う姿勢を見せていたことだ。何ひとつ隠すことなく、ライバル国の日本に現状を語ってくれた2人の選手に感謝するとともに、アジア選手権で対戦することがあれば、リスペクトしあう存在として戦いたい。

 インタビュー第一弾は、ヤンドングンのインタビューを紹介する。「アジア選手権にかける思い」「日韓戦における心情」「KBLの現状」など、普段はなかなか踏み込んで聞けない話を、ライバルチームの司令塔を通して聞いた。
 
◆次ページから3ページにわたりヤンドングン選手のインタビューを掲載。
 
 
ヤン・ドングン YANG ,Dong Geun 양동근/梁東根

1981年9月14日生まれ(31歳)/181㎝/81㎏/PG/龍山高→漢陽大→蔚山モービス/【プレースタイル】ドラフト1位で蔚山モービスプロ入り。モービスのユ・ジェハク監督(現韓国代表監督)とのもとで学び、得点力のあるポイントガードとして開花した。運動量の多いパワフルなプレーで魅了する。どんなときも誠実なリーダーとしてチームを牽引する姿勢に「現役KBL最高選手」と評価されている。【経歴】2001年、ヤングメン(U21)世界選手権に出場。2006年に国家代表入り。アジア選手権には2007年から4大会連続出場。今大会は韓国代表のキャプテンを務める。KBLでの主な受賞は新人王、正規リーグMVP(2006、2007年)、プレーオフMVP(2007、2013年)、最優秀ディフェンス賞。【子煩悩】大学時代の同級生と結婚し、1男1女の父親。バッシュに愛息子と愛娘の名前を刻んでアジア選手権に挑む。【先輩後輩】3歳年下のキムテスルのことを可愛がりながらも「ヒョン(兄)」と呼ぶ一面も。「僕よりお金を稼いでいる人や、尊敬できる人はすべて“ヒョン”です(笑)」(実際にはヤンドングンのほうが年俸は上である)
 
 

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