Wリーグファイナル<1> [WJBL]

吉田亜沙美 JX-ENEOS#12

「去年の分をプレーで返すしか、自分にはなかった」

Wリーグ7連覇を遂げたJX-ENEOS。司令塔・吉田亜沙美にとっては2年ぶりのファイナルの舞台だった。吉田のプレータイムが大きなカギを握っていた3連戦だったが、どの試合でも吉田は人一倍、闘志をむき出しにしてチームを牽引し続けた。「連覇」という宿命を背負ったファイナルの舞台で、どんな思いで戦っていたのかを、吉田に聞いた。

取材・文/舟山 緑   写真/一柳英男

第3戦は富士通が気迫の攻防を見せて序盤からリード。JX-ENEOSにとっては我慢の時間帯が続いた

「ぶっ倒れてでもコートで全力プレーを表現すること――。
去年の分をプレーで返すしか、自分にはなかった。
それができて、本当によかったです」

7年ぶりの対決となったJX-ENEOS-富士通のファイナル。注目は、連覇をめざす女王JX-ENEOSに、勢いに乗る富士通がどう対抗するかだったが、結果はJX-ENEOSの3連勝に終わった。勝負のカギは、左ヒザのケガから完全に復調していない司令の吉田亜沙美がどれだけプレーできるかだった。富士通は攻撃の起点となる吉田にプレッシャーをかけてパスの出所を苦しめたかったし、吉田から渡嘉敷来夢、あるいは間宮佑圭へのホットラインも抑えたかったはずだ。

勝負どころでは徹底してインサイドを生かした攻撃を組み立て、チームを勝利に導いた

渡嘉敷への守りは第1戦、第2戦はある程度、効いていた。しかし、吉田へのプレッシャーは、あまり機能していなかったと言わざるを得ない。町田瑠唯、篠崎澪、中原恵里らが交代で吉田にマッチアップしたが、吉田を十分に苦しめるには至らなかった。プレッシャーをかけられながらも、吉田が崩れることは全くなかった。

何よりも吉田の闘志は、コート上の誰よりもむきだしだった。「絶対にこのゲームは渡さない!」という激しい気迫に満ちていた。武器である攻撃的ディフェンスは、ケガ前と比べればプレッシャーが少し弱かったかもしれない。第3戦では町田に16得点を取られている。しかし、3戦を通して吉田は、自らの体力を考えながら、挑むようなディフェンスを仕掛け続け、ゴールにアタックし続けた。一方、ベンチに下がったときの吉田は頭をたれて肩で大きく呼吸をし、本当に苦しそうだった。吉田は、体力の限界とも戦っていた。

第1戦のプレータイムは20分。第1クォーターで一気にたたみかけたJXが余裕の勝利を収めた。もし、この初戦がクロスゲームになっていたら、その後の展開は分からなかったかもしれない。だが、この余裕の展開が吉田に幸いした。中一日おいての第2戦は36分の出場で、第3戦は40分のフル出場となった。

最終戦、ビハインドの展開の中、佐藤ヘッドコーチは何度も吉田に交代を問いかけたが、吉田の答えは変わらなかったと言う。第4クォーターまで追いかける展開では、ベンチに容易に下がれない。「絶対に40分間出る覚悟だった。そこは譲れなかった」と、試合後に語った吉田。第4戦、第5戦と勝負がもつれればもつれるほどきついのは分かっている。だからこそ、3連勝で優勝を決めるという思いが強かったのだ。

JX-ENEOSの強みは、渡嘉敷、間宮という絶対的なインサイドにある。今季はそこに3番にコンバートされた宮澤夕貴が、安定したシュート力で加わった。しかし、この強力な3枚も司令塔の吉田がいればこそ活きてくる。吉田がコートにいるときのチームの安定感は抜群だった。持ち前のキラーパスでブレークを繰り出し、渡嘉敷や間宮のポストプレーを演出した。プレーオフMVPは渡嘉敷に輝いたが、3連戦を気迫のプレーで牽引した吉田もまた、MVPに匹敵する活躍と大きな存在感を見せつけせたと言えよう。

2年ぶりのファイナルのコートで、吉田がどんなことを考え、どんな思いで戦っていたのかを聞いた。

ビハインドの展開から逆転勝利

「すごく苦しい展開でしたが、最後は自分たちのバスケットが
出し切れたと思います」

――7連覇、おめでとうございます。2年ぶりの優勝の味は、また格別でしたか。

そうですね(笑)。昨シーズンはすごく悔しい思いをしたので、とても思い入れのあるファイナルになりました。これまでのファイナルとは違う新鮮さがあり、初めてファイナルの舞台に立つかのような楽しさを改めて感じていました。昨シーズンはベンチで見ているしかなかったので、復帰した今季はどうしても優勝したいという強い気持ちがありました。7連覇はどうしても崩したくなかったので、すごく思い入れのあるファイナルになりました。

――相手の運動量が落ちてきた第4クォーター、ゲームメイクで意識したことは?

ファイナルでは積極的に攻めてチームを牽引。スピードあふれる気迫に満ちたプレーを披露

速い展開、自分たちの走るバスケットにもっていくことが相手にプレッシャーを与えることになると思ったので、自分が積極的にドライブにいくことと、バックコートから速い展開でシュートを打ち込もうと思っていました。周りの選手も「まだ大丈夫!」と声を掛け合っていたので、自分も「大丈夫だな」という思いがありました。

――第4クォーターで富士通は3得点。相手の脚が止まるのは見越していた?

うちの選手は、間宮(佑圭)にしても渡嘉敷(来夢)にしても国際経験がすごく多いので、そこは分かっていたと思います。間宮が記者会見で言っていたように、トヨタ自動車とのセミファイナルで13点ビハインドから逆転勝ちを経験しましたし、練習でも7点ビハインドや10点ビハインドからの5分ゲームというシチュエーションドリルをずっとやってきていました。なので、4クォーターで点差を1ケタにもっていけたら、自分たちのペースに必ずもっていけるという自信はありました。すごく苦しい展開でしたが、最後は自分たちのバスケットが出し切れたんじゃないかと思います。

――最終戦は序盤からなかなか外角が入らない展開。インサイド勝負しかないと思っていましたか。

そうですね。向こうもアウトサイドを捨てていた印象があります。間宮のところも結構、ノーマークにされ、打たされていましたが、それでも打ち続ける強さが間宮にあったし、岡本(彩也花)にしろ、宮澤(夕貴)にしろ、自信を持って、プライドを持ってシュートを打ち続けてくれたのが、最後にいい結果になったと思います。そこはやはり練習してきたので自信があったと思うし、最初は入らなくても打つ続けることで誰かがリバウンドを取ってくれる、そういう信頼関係もありました。

今後は、一人ひとりがもっとシュートを決め切る力をつけなくと。自分の外角シュートもなかなか入らず苦しい展開になりました。もっと自分のシュートが入っていたら、こういう重い展開にはなっていなかったと思うし。そこはポイントガードとしてもっと成長しなくてはいけない部分だし、そういう課題が見つかったことは非常にうれしかったです。
 
 
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