アジアカップMVPプレーヤー [海外]

サマッド・ニックハ・バハラミイラン代表 #14 (キャプテン)

「いつでも、この1秒が、バスケット人生最後の1秒だと思ってプレーしている」

アジアカップで日本との激闘の末に優勝したイラン。若返ったチームを心身両面でリードしたのが、サマッド・ニックハ・バハラミだ。その勝負強さとリーダーシップは、日本のファンにも強烈に印象に残った。アジアのMVPプレーヤーにバスケットに対する思いを聞いた。

インタビュー・文/小永吉陽子  写真/一柳英男

代表のスタメンクラスは3人。平均年齢23.08歳は日本よりも若い。イランにとっても成長した大会だった

イランの過去と現在と未来”を背負って戦った闘将――サマッド・ニックハ・バハラミ

 激闘となったファイナルが終わった直後のことだった。国旗を掲げながらビクトリーランを行う歓喜の輪の横で、一人、日本チームのベンチへ駆け寄り、スタッフと選手、一人一人に握手を求めにいった男がいた。 

 イランを優勝に導いたエース、サマッド・ニックハ・バハラミ――。過去に2度のアジア選手権制覇を知る29歳のエースは、若手チームで臨んだ今大会、イランの過去の歴史も、今この時も、これから起こりうる未来も、全部背負ってこのアジアカップを戦っていた。

 大会の序盤、イランはチームのリズムを作れずに苦しんでいた。チームが困難に陥ったとき、僕たちはここで負けてはいけないチームなんだ――と、若手たちに身体を張って勝利への執念を示していたのがバハラミだ。本来はオールラウンドなゴールハンターだが、自分にマークが寄れば、広い視野からボールをコントロールしてさばいた。日本は予選リーグでも、決勝でも、バハラミの得点を最小限に食い止めることはできても、ボールをさばかれたときの対処ができず、その対処に遅れると、今度は勝負どころでやられてしまった。

 プレーだけではない。意識の面でも彼はリーダーだった。ミスを重ねて遠慮しがちだった若手選手を鼓舞し続け、時には叱咤し、自分がコートに立ったときは彼らのミスをフォローした。最初はただベンチで手を叩いて参加しているだけだった若手選手も、頼れるリーダーに引っ張られるかのように、次第に代表における自分の役割を理解し始め、コートに出た時には責任を全うしようと挑む姿があった。そうして、選手間に生まれた新たな信頼関係がチームを成長させ、優勝という結果をもたらしたのだ。

 バハラミには聞きたいことが山のようにあった。予選リーグ中と決勝が終わったあとの2回にわけてインタビューを行ったが、よどみなく出てくる言葉の数々に改めて驚かされた。彼の頭の中はバスケットボールのことでいっぱいなのだ。すべてを包み隠さずに本音で語り、時にはユーモアを交えながら答えてくれたコメントからは、バスケットボールに対する真摯な取り組みがハッキリと見えた。アジアのMVPが語るバスケットボールへの熱い思いをここに紹介したい。
 
●翻訳協力/宮地陽子、根岸史絵 
 
  
■9月17日、日本との予選リーグ前日のインタビュー
「自分はいつでも100%でプレーするけれど、

チームが傾くのであれば、120%の力を出さなければいけない」

試合中に熱くなりすぎて感情をむきだしにすることも多々ある。裏表が一切なく、思ったことは何でも口にする。しかし、必ず冷静になって対処する対応力を持つ。自分の全部をさらけ出して真っ向勝負を挑むイランの魂だ

――予選リーグではカタール、チャイニーズ・タイペイに後半に逆転勝ち。苦しい試合が続いていますが、戦っていて手応えは。

すべてが本当にタフなゲームばかり。若手が多いからこういう試合になってしまうけれど、若い選手は経験することが必要だから、タフなゲームを経験できていることは、いいことだと思う。

――カタール戦もチャイニーズ・タイペイ戦も前半の出来がものすごく悪く、後半に立て直して逆転しています。前半はチームに何が起こって劣勢になり、そして、後半に逆転できる要因は何ですか?

前半は自分たちのバスケができずに相手にリードを許しているけれど、どうやって自分たちのリズムにするかを考えながらやっている。そして後半に自分たちのリズムを取り戻すためのディフェンスができるようになって、その結果、チームを立て直すことができた。カタールには前半19点もリードされたし、チャイニーズ・タイペイにも前半負けたとしても、どの試合も結果論として勝てたことは、このチームが成長していることだと思う。

――毎回苦しい試合になっているのは、今回はU18の選手や、代表歴がはじめての選手など、若手選手たちが試合に出ていることもあると思います。若手にはこのアジアカップで何を求めていますか?

この大会で自分たちが心がけているのは、若い選手を含めて全員がコートに立つこと。U18の選手たちとコーチはアジア選手権が終わったばかりで、僕たちは全員が集合して10日くらいしかない中でこの大会に来たんだ。ジュニアとシニアの国際大会はまったく違うので、彼らにシニアの戦い方の経験を積ませたいと思っている。U18からいきなりシニアのレベルでやるのは難しいことはわかっている。でも、U18では許されるミスも、ここでは許されない。ミスは命取りだということを知ってほしいんだ。

若いからミスをしていいわけではないけれど、ミスをしたらそのあとに取り返す努力が必要。しかもミスをすれば相手はどんどんつけこんでくるし、こっちがミスを取り返せば、仕返ししてくることだってある。若い選手たちにはミスのひとつが負けのリスクにつながることを実感してほしい。今はこうやってやり合って経験を積んでいくしかないよね。それで最終的に勝てばいい。今回はタフな試合が続いて大変だけど、イランが成長するためには必要な大会で、通る道だと思っている。ゲームごとに伸びてきているので、これでいいと思う。

――この若いチーム構成の中で、キャプテンのあなたがやるべきことは。

どんな選手構成であろうと、僕のやることは変わらない。とにかく若い選手は自信を失いやすくなるので、そこで自分が引っ張っていきたい。このチームは若いのでミスをすると感情的になったり、本来やってはいけないプレイをしたりする。自分はいつでも100%でプレイするけれど、チームが傾くのであれば、120%の力を出さなければいけないと思っている。どんなに頑張ったって試合に負けたら意味がないからね。とにかく、どんな状況でも勝つためにどうすればいいかを考えている。今回は若手が多いから、大事な場面では自分がやらなきゃね。

ただ、代表に選ばれれば年齢は関係ない。代表に選ばれるだけの素質があるから代表に選ばれたのであって、代表に選ばれたんだったら、若かろうが、ベテランだろうが、責任を果たすことは同じだと思う。

――あなたにとって「イランの代表」とは。

僕は代表のコートが大好きなんだ。与えられた時間に自分のすべてを出すのが国の代表。それはコートに一秒出ていても、40分出ていても同じこと。

――あなたは2年前に左膝をケガして世界選手権(トルコ)の出場を直前で辞退しました。その2ヶ月あとのアジア競技大会(中国・広州)でもベンチには入っていましたが、プレーはしませんでした。去年のアジア選手権(中国・武漢)もまだ膝の状態が思わしくなく、時間調整をしながら戦っていました。今はどこまで回復したのですか?

左膝はまだ痛いんだ。完治はしていない。実際、今は膝を酷使する時期ではないけれど、大切な2つの大会があるので(アジカカップと、10月のアジアチャンピオンズカップ=クラブチームのアジアナンバーワン決定戦)やるしかない。僕はプロのバスケット選手で、バスケットをすることが仕事なので、代表に選ばれればもちろんプレイする。痛みがある中でどうコントロールをしてプレーするか、そういう経験も必要だと思うから。この膝と付き合いながら、大切な大会のためにどうコンディションを合わせていくかかも自分の仕事。

サマッドの周りにはいつでも輪ができる。コート内外で選手同士のコミュニケーションの場面が目立つ

――明日の日本戦(予選リーグ最終戦)に向けての抱負は。

アウェイの環境での試合になるね。日本は東アジアだし、自分たちのファンが少ないのはしかたない。僕たちだって東京まで来るのに20時間もかかったのだから、僕たちのファンがここまで来るのは大変だ。でも自分たちが一生懸命にプレーしたら、ひょっとして日本人もイランのファンになってくれるかもしれないよね(笑)。お互い、ファンが見ていて熱くなるゲームがしたいね。

――あなたのバスケットに対するモットーを聞かせてください。

常にトップに居続けること。僕はアジアでいちばん練習している自負がある。やってきた練習を信じて戦うことがモットーだ。どんな大会でも、どんな試合でも、1分1秒すべてに全力を尽くしたい。いつでも、この1秒が、バスケット人生最後の1秒だと思ってプレーしている。練習を頑張り、試合でベストを尽くす。仲間を信頼して、コーチの話に耳を傾ける。当たり前のことを一生懸命にやることが勝利につながると思うから。

――話を聞いていると、本当にバスケットが好きなんですね。

僕は一日15時間はバスケットのために費やしていると思うよ。寝ている時以外は全部かな(笑)。基本的にバスケットをしていなければ暇だから、結局は一日中、バスケットのことばかり考えてるんだよね(笑)
 
 

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