東アジア選手権、国際親善を経て見えた課題
ハイピックを駆使できなければ、世界への道は開けない

文/青木 崇  写真/小永吉陽子、細田季里

ハイピックを駆使できなければ
世界への道は開けない
 
 

究極のシンプルかつ有効的なプレー「ピック&ロール」が苦手な日本人選手。
セットオフェンスを“機能”するレベルまでに引き上げなければ、アジアでは勝てない

ピック&ロールからの展開が苦手な日本は、窮地に陥った時の攻め手が少ない

 来年のFIBAワールドカップ出場がかかるアジア選手権まで、あと1ヶ月を切った。昨年9月、東京で開催されたアジアカップで取材して以来、筆者の中で今も変わらない日本代表への印象がある。

“オフェンスが単調で、得点できない時間帯に陥りやすい”

 その印象がより強くなったのは、JBLのファイナルだ。代表を率いる鈴木貴美一コーチは、優勝したアイシンの指揮官。ロースコアになった最終第5戦の試合を見た時、オフェンスは桜木ジェイアール頼りで、ハイピック(インサイドのプレーヤーがトップや高い位置でスクリーンをかけ、そこから攻める方法)から仕掛けやウィークサイドのアクションがほとんど見られない。ボールとプレーヤーの動きが止まっているシーンの多さも、単調と思える原因だった。

 バスケットボールはマッチアップのスポーツ。優位に立てるミスマッチがあれば、そこを徹底的に突くのは常套手段である。ただし、JBLでは可能であっても、国際試合で同じことを桜木にさせようとするのは無謀。使えるセットオフェンスの数を増やし、試合で機能するレベルまで到達するように練習しないと、アジアカップのようなディフェンスの頑張りがあっても、アジア選手権では勝ち抜くことはできない。

 5月に韓国の仁川で開催された東アジア選手権を見た時、日本のオフェンスは苦戦していた。招集からわずかな練習時間で臨んだことや、セットも指で数えられる程度しかなかったという事情があったといえ、“醜い”と表現したくなるくらいのレベルだった。あれから5週間が経過したフィリピンとの3連戦では、3Pシューターの松井啓十郎を生かすなどセットプレーの数が増え、クオリティも高まっていた。しかし、ハイピックからの仕掛けが少ないところは、JBLファイナルでのアイシンを見ているようだった。

 昨年のアジアカップ、鈴木コーチが前回代表を指揮した2007年のアジア選手権の映像を見直したが、いずれもスクリーンを使って仕掛ける形は少なかった。ピック&ロールをあまり使いたがらないコーチと個人的に感じていたが、NBLに所属するチームでスカウティングを担当しているスタッフとの話で「ほとんど使っていない」という言葉を聞くと、その思いは強くなった。

 日本は東アジア選手権、実力がA代表からほど遠いフィリピンとの3連戦を通じて、ハイポストにボールを入れ、ハンドオフ経由からスクリーンを使うセットが多かった。しかし、パスコースを遮断されると、ボールが渡る位置がエルボーから3Pラインまで押し出されてしまうこともしばしば。パスが通るまでに時間がかかると、流れの中でスクリーンプレーを使ったとしても、オープンになってのシュートは正直少なかった。

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 日本がアジア選手権で成功するためのキーワードは、“ハイピック&ロール”だと思っている。その理由は、プレー自体がシンプルながらも、ディフェンス対応が非常に難しいから。日本で行われた2006年の世界選手権を思い出してほしい。本命視されていたアメリカが準決勝で負けた要因は、ギリシャのハイピックをまったく止められなかったことに尽きる。スクリーンを生かしたガードによるドライブ、ピックしたビッグマンがゴール下に走ってのフィニッシュやアウトサイドに動いてのジャンプシュートなど、仕掛けの入り方は同じでも、そこから展開するための選択肢が豊富。これこそが、ハイピック最大の強みなのだ。

 仁川で鈴木ヘッドコーチに質問した際、「ゲームの中でピック&ロールというシステムを持っていますけど、そればかりをやったとしても勝てるということではない」という答えをもらった。だが、筆者はハイピックを多用できるレベルになれば、国際試合でもっと勝てるという考えを持つ。フィリピン戦では竹内公輔、太田敦也にローポストから攻めさせるインサイド・アウトを使っていたが、フロントラインの高い中国やイラン相手だと、桜木が合流したとしても機能するか疑問符がつく。フィリピンのA代表にはアメリカから帰化したマーカス・ドゥーシット(211cm)、1次ラウンドで対戦するレバノンにも元NBAのローレン・ウッズ(218cm)がいることも忘れてはならない。

 先日のNBAファイナルで頂点に立ったヒートは、レブロン・ジェームスがボールを持ってのハイピックを何度も使っていた。スパーズは徹底的にスカウティングを行っていたし、選手たちもやってくるとわかっていながらも、最後まで止められなかった。他にも例はある。リトアニアがアメリカとロンドン五輪で対戦した際、身体能力で大きく劣りながら終盤まで接戦(スコアは94-99)に持ち込めた最大の要因は、ハイピックからのセットでフリーの選手を作り、着実にシュートを決めていたからだ。日本に目を向ければ、bjリーグを制した横浜ビー・コルセアーズが、ドゥレイロン・バーンズからのハイピックを多用していた。
 
 

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