韓国の選手村で起きていた日本代表の変化
国際大会の強度、準備、挑戦。すべてを体感した韓国遠征

文・写真/小永吉陽子

韓国代表との2戦目は68-65で勝利。主導権を握った試合展開に喜びが弾けた

国際大会の強度、準備、挑戦
すべてを体感した韓国遠征

アジアを知り、情熱と積極性を持つことが今年のテーマ

2014年6月、今季から指揮官に就任した長谷川健志ヘッドコーチのもと、男子日本代表は2020年に向けた長い道のりへの一歩を踏み出した。

長谷川ヘッドコーチはNBLやbjリーグといったトップリーグでの采配経験はないが、「青山学院大を大学界屈指の強豪に育て上げ、2007年ユニバーシアードでは4位に導いた育成力」(堀井幹也強化部長)を理由に抜擢された。また強化部は「2020年につながる日本代表を育成する」ことを宣言し、長期的なプランで長谷川氏に指揮を任せることも発表している。

日本代表の今年の最大の目標は、「アジアを知る」(長谷川ヘッドコーチ)ことだ。これは初のA代表を率いる長谷川ヘッドコーチ以下、コーチングスタッフと選手全員が経験を積むための共通のテーマ。26名の候補選手たちは、7月の「アジアカップ」8月の「ジョーンズカップ」10月の「アジア競技大会」の3大会に振り分け、いずれかの大会に選手を派遣してアジアを体験させる予定だ。そしてチーム作りのメインテーマに掲げているのが「積極性と闘争心を持ってトライする」こと。これまでの日本にいちばん欠けていた“芯”の部分からチームを作り直す方針だ。

「積極性と闘争心」をモットーとするチーム作りの軸となるのは、今年度に30歳を迎える竹内公輔・譲次兄弟や石崎巧、岡田優介ら7人、2002年にU-18アジア選手権で史上初の中国に勝利し、2007年のユニバーシアードでは4位の成績を収めた世代だ。

「東京オリンピックを迎えた時に彼らが全員いるとは限らないが、少なくともこの2、3年で日本の現状を変える力がある世代だし、若い世代に橋渡しする力にもなってほしい」と長谷川ヘッドコーチは、経験とリーダーシップを彼らに期待している。

彼らのリーダーシップは、このチームでの実戦の少なさから自信がみなぎるものではないが、少なくとも、これまでの静かなチームのムードは一掃していた。キャプテンを託された石崎巧は指揮官と同じく「僕らが東京オリンピックに向けて切り開いていく存在にならなくてはいけない」という使命感を口にしていた。同時に、自身のドイツでの経験を踏まえてこうも話す。「気持ちは大切だけど、国際大会は気持ちだけで勝てるものではないことを、僕は外の世界を見て知った」と。遅れを取っているアジアの中で日本に突き付けられた課題は何なのか。長谷川ヘッドコーチが「アジアを知る」第一歩として選んだ遠征の地は、海ひとつ隔ててすぐに飛べる韓国だった。
 
 

32点差の大敗。韓国は日常から強度のあるプレーをしていた

ソウルから高速に乗って1時間半~2時間。鎮川郡の山中にある韓国の「選手村」

長谷川ヘッドコーチは初遠征の地に韓国を選んだ理由をこのように語る。

「東アジアの民族でほぼ同等の体格をしているのに、向こうはワールドカップ出場、我々はアジアで低迷している。その差は何なのかを、私を含めた選手やスタッフ、全員に感じてほしい。また、僕のバスケットのお手本は韓国ですし、このチームの最年長は大学生の時から李相佰盃やユニバーシアードで韓国とは死闘を戦い抜きました。その世代を中心にするので、そこからスタートしたい。何よりすぐ行ける利点もある。韓国にすぐに追いつくとは思ってません。でも絶対に追いつくんだという気持ちでスタートを切りたい」

韓国はこの夏のワールドカップと、自国開催のアジア競技大会(以下、アジア大会)の2大大会に向けて選手選考の真っ只中だった。日本より早い5月19日から活動を開始しているものの、例年以上に主力にケガ人が多くて万全の状態とは言えず、そのため韓国側も選手の状況を見極めるために対戦相手を欲していたという。お互いにただの練習試合ではなく、代表への生き残りをかけたテストマッチの意味も込められていた。

試合会場となった「鎮川(チンチョン)選手村」は日本でいう「味の素ナショナルトレーニングセンター」(東京都北区)と同様、国の強化施設にあたる。ソウルから高速を飛ばして1時間半~2時間の山中にあるその「選手村」は、周囲には娯楽施設が何ひとつなく、ただひたすら練習に打ち込むために建てられた施設だといっていい。男子が練習する隣のコートでは韓国女子代表もアジア大会に向けて汗を流していた。

6月27日、韓国代表との第1戦。日本はすでに韓国遠征中のブリガムヤング大ハワイ校に73-63で勝利し、KBLの電子ランドには80-87で敗戦した中で3戦目に韓国代表との一戦を迎えたが、これまでの2戦とは明らかに違う衝撃を受けることになる。韓国のプレッシャーディフェンスの前にボールを運ぶことすらできなかったのだ。

昨年のアジア選手権でもそうだったが、韓国は12人を起用し、オールコートプレスで激しく当たる展開を仕掛けてきた。その強度が昨年よりもバージョンアップしていたのだ。

韓国のプレスの前に面食らって、何もさせてもらえなかった一戦目

「昨年と違うのは、今年はワールドカップで世界と戦うことでセンター陣が外角を守ることをテーマとしている」と韓国代表のユ・ジェハク監督が言うだけあり、状況に応じてインサイドの選手も前線からプレッシャーをかけるディフェンスは迫力があった。何もさせてもらえなかった日本は56-88と32点差で完敗を喫した。

「NBLでやっているようにペース配分なんてしていられない。自分の体力がゼロになるまで走り続けなければいけないのが国際ゲームだと改めて感じた」(竹内譲次)

毎度のことながら日本は、国際大会レベルの一発目の試合は、フィジカルコンタクトの強さに対応できない弱点を抱えている。もし、この屈辱的な大敗から収穫があったとすれば、韓国は普段からも国際大会の当たりの強さを意識した中で練習していると知ったことだろうか。普段からやっていなければ、こんな当たりの強さを突然出せるわけがない。練習の強度一つにしても見直さなくてはならないのが今の日本なのだ。
 
 

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