トヨタ自動車アルバルク、天皇杯獲得の要因
「実行力、インパクト、信頼」──トヨタ王座奪回のルール

文/渡辺淳二  写真/高野洋、一柳英男

 オールジャパン(全日本総合選手権)の男子は、前半戦を終えたJBLの上位4チームがそのまま準決勝に勝ち上がり、しかも昨年と同じ顔合わせとなった。トヨタ自動車アルバルク対パナソニックトライアンズ、アイシンシーホース対日立サンロッカーズ。そして決勝で、リーグ首位のトヨタが、同2位のアイシンのオールジャパン5連覇を阻み、69-65のスコアで5年ぶり2回目の優勝を飾った。
 2012年1月9日、東京・代々木第一体育館で行われたこの頂上決戦を振り返りながら、アイシンを上回ったトヨタのチーム力を探ってみようと思う。が、その前に…。
 

トヨタ自動車、2度目の優勝の経緯

 2007年に話を遡る。その年、トヨタはアイシンを79-45という珍しいスコアで下し初優勝を飾っている。トーステン・ロイブルヘッドコーチ(現レバンガ北海道)の采配の下、マンツーマンとゾーンを織り交ぜたチェンジングディフェンスでアイシンの攻撃をシャットアウトしたのだ。まだ大学生だった竹内公輔と竹内譲次が、それぞれ慶應義塾大と東海大の学生でベスト4を争った大会といえば、思い出していただけるだろうか。その翌年の大会から昨年まで、アイシンが優勝回数を積み上げてきた。そのキーマンの一人となってきたのがアイシンに入った竹内公輔であり、そして彼を今シーズン手にしたトヨタが、2007年以来の優勝をも手中に収めた恰好である。

トヨタでの戦いに馴染んできた竹内。準決勝パナソニック戦では勢いある攻めを展開

 優勝会見でその竹内公輔が笑いを誘う。

「日本代表から戻ってきて、次の日から練習という無茶なスケジュールもありましたが、こういう結果が出てうれしいです」

 冗談混じりにそう言う竹内は、アイシンにいた時のような存在感の大きさをトヨタで示すことができないでいた。事実JBL個人ランキングでもシュート率こそ3位だが(※上位3人がトヨタ勢)、例年に比べるとリバウンドやブロックショットは控え目な数字だ。理由は移籍1年目ということだけではない。出場時間を10人程でシェアして戦っているのだ。竹内がこう明かす。

「ヘッドコーチには『インパクトを与えろ』とよく言われます。出ている時間の中でインパクトが与えられたらプレイタイムが伸びるし、逆に与えられないなら少なくなるんです」

 インパクト――。直訳すれば衝撃、意訳すれば、ハイクォリティなパフォーマンスをコート上で発揮し続けるということだ。そして竹内だけでなく、リンク栃木ブレックスから移籍してきた田中健、日立から移籍してきた松井啓十郎らが早くもチームルールを理解し適応した。40分間、ゲームにインパクトを与え続けるだけのメンバーを揃えることにトヨタは成功し、チームとして見事に機能したのだ。
 

指揮官 ドナルド・ベックの実像

ドナルド・ベック、58歳。情熱的、完璧主義者──と選手からの信頼は厚い

 竹内が言う「無茶なスケジュール」も交じえながら、トヨタを5年ぶりの優勝に導いたのが、就任2年目のドナルド・ベックヘッドコーチである。彼は、準々決勝、準決勝、そして決勝と同じ勝因を口にしている。

「トヨタのベースとなるのはディフェンスとリバウンド。それをしっかりとやれば、何でも可能だと選手たちには言っている」

 キャプテンの正中岳城は彼について「情熱的で負けず嫌い。こうした方がいいと選手に考えさせない。ヘッドコーチの情熱に浮かされながら僕らはプレイしているような感じです」と表現する。

 アシスタントコーチの伊藤拓摩(※伊藤大司の実兄)は「完璧主義者」ときっぱり。

「たとえ大差で勝っていても、ディフェンスとリバウンドをさぼったら、必ず厳しく指摘します。ヘッドコーチが妥協しないから、選手はもっと妥協できませんよね」

 攻撃においても、一つ一つのスクリーンを確実にセットするなどExecution(実行力)を細かく求めるらしいが、当然のことながら、厳しいだけの指導者ではない。ベテランの渡邉拓馬が言葉を添える。

「シュートをミスしても、ターンオーバーをしても代えない、懐の深さを持っていますよ。今までのトヨタのヘッドコーチの中でも、細かいところまで修正する方で、チームが強くなっているという実感はありました」

 アメリカの大学で指導歴を積み重ねた後、ヨーロッパへと渡ったベックヘッドコーチ。そうして、3ヶ国で4つ目のチャンピオンとなった今回の優勝を「スペシャルだ」と喜ぶ。

「選手の個性が豊かで人柄がよく、そして全員がハードワークする。私の家族はドイツに住んでいて離れているのがつらいですが、それでもトヨタをコーチすることにやりがいを感じています」

 家族と時間をともにできない寂しさを抱えながらもトヨタに、そしてバスケットに情熱を注ぐ指揮官と、日本を代表する選手たちとの「信頼関係」。そしてスタメンだけでなく、ベンチメンバーを含めた選手どうしの「信頼関係」もトヨタの力として働いた。
 

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