選手が痛感したアジアの中の日本の実力
検証――なぜ勝負所で逃げてしまうのか

文・写真/小永吉陽子  Text&Photo/Yoko Konagayoshi 


勝負所でメンタルの弱さを露呈した日本は7位で大会を終えた。
タフに戦えない日本選手に対し「海外で揉まれよ」という声は多く、今すぐにでも
開拓したい道である。
しかしその前に、日本の選手はなぜ勝負から逃げてしまうのか。
この問題点を飛ばしてしまっては、ただ「海外で修業しろ」といってもモチベーションは生まれてこない。
日本やアジアの中でやるべきことすら、やっていないことに、まずは気付くべきだろう。
大会中に逃げてしまった場面から検証する。

 

大事な場面で逃げてしまった日本。逃げてしまうのは、自信がない不安から

レバノンに逆転負けした瞬間。逆転負けにはただ茫然とするしかなかった。次戦が中国戦とあって、観客が埋まってアウェイに近い試合だった

日本は準々決勝で韓国に惨敗してロンドンへの道が断たれ、7位で大会を終了した。大会を振り返ると、ポイントとなったのは1次リーグに全勝したあと、2次リーグのフィリピンに敗れたことだった。勝負ごとに「たら、れば」は禁物だが、フィリピン戦に勝っていれば、グループ2位になり、準々決勝では格上の韓国と対戦することが避けられ、逆グループ3位のチャイニーズ・タイペイとの対戦になるはずだった。これを勝つことにより、ベスト4への可能性は拓けただろう。

しかし、大会が終わった今に感じることは、たとえ準々決勝の相手がどこであれ、日本は負けてしまったのではないか、と思うことだ。「負けてしまったのではないか」ではなく「戦いに挑まなかったのではないか」のほうが表現が合う。大会中、そう思わざるを得ないような場面に何度も遭遇した。

象徴的だったのは5-8位決定戦。準々決勝で敗れたあとの失意のレバノン戦だった。今大会のレバノンは若手にメンバーを一新していた。そのレバノン相手に前半は主導権を握ったものの、3Qには逆転される。しかし、もう一度立て直して、残り5分には11点のリードに持ち込んだ。この勝利をもぎとることには大きな意味がある。ひとつは、失意の中で順位決定戦を勝ち切るメンタルを身につけること。もう一つは、5位決定戦で元アジア王者のイランと戦う目標を実現することだ。

だが、日本はみるみる点差を詰められる。残り1分半、川村卓也がプレッシャーをかけられてボールをファンブル。このあと日本のディフェンスピックアップが遅れたために、残り1分6秒、不意を突かれた3Pでついに78-80と逆転される。日本はタイムアウトを請求。

残り42秒、日本のシュートが弾かれてレバノンがリバウンドを奪取。日本としては何がなんでもレバノンのオフェンスを早い時間に止めてマイボールにしなければならなかった。しかし、ここで日本はディフェンスを引いてしまったために、レバノンにゆっくりと攻める時間を与えてしまった。逆に、日本の最後の攻めはプレッシャーをかけられたために成功しなかった。残り0.7秒に得た2本のフリースローを落とす結末になったが、そのことよりも前に、攻めるところと守るところで逃げたことのほうが納得いかない敗戦だった。

逆転された直後に取ったタイムアウトでの指示について選手に聞くと、「ディフェンスで当たる指示はなかった」という。「プレッシャーをかけると思っていたけど…」と試合後に口にする選手もいた。川村は「指示がなくても、一次ラウンドでは自分たちで相談してディフェンスを変えたりしていたので、そういう判断が緊迫したところでできないっていうのは余裕がないということ。自分たちが勝っていれば余裕があるし、負けていれば不安でしかたない。それだったら、こういうゲームになる」と、みずからへの怒りを隠せないながらも、そう分析した。指揮官は明確な指示ができなかった。選手たちは不安に直面したときに逃げた。これがフィリピン戦以降、大事な試合を戦う日本の姿だった。

目標がないから、やってきた「プレッシャーディフェンス」を徹底することができない

中国相手にディフェンスで止めた場面もあった。高さの前に集中力が続かず、ミスを重ねてしまった

原点に戻れば、日本のバスケは何を武器にして戦うのだろうか。昨年、トーマス・ウィスマンHCが就任してからの1年間は「アジア諸国からのリスペクトを取り戻そう」と、「プレッシャー・ディフェンスからのフルコートの展開」を試みてスタンコビッチカップで準優勝、アジア大会で16年ぶりのベスト4という結果を出した。しかし、「リスペクトを取り戻す」目標だけでは、アジア大会の準決勝以上のタフな試合を戦い抜くことはできず、そこで新たな目標設定や、武器をさらに“徹底”することが必要になった。

しかし、不運にも今大会は、ガードの柏木真介が1次リーグのヨルダン戦で右太ももに肉離れを起こし、大会に入ってアグレッシブに攻めていた竹内譲次が、フィリピン戦で左わき腹のあばらを打撲したことにより、以降、2人は欠場を余儀なくされた。そこから指揮官に迷いが見え始めて選手起用が不安定になった。誰を使って、何を強みにして、どう攻めていくのか、どう守るのか、ゲームから伝わってくるものがなかった。

今大会はじめてメインガードを務めた正中岳城については、勢いあるプレイで弾みこそつけたが、40分間、ゲームを統率するだけの準備はできていなかった。ならば、いきなりメインを任された正中をカバーするだけのスタイルを作れなかったものだろうか。そこで、日本は何をすべきだったのか――。原点に立ち返れば、やはり、ディフェンスを強調した戦いしかなかったのではないだろうか。言い換えれば、日本はそれしかやってきていない。

昨年からウィスマンHCのもとで練習をしている桜井良太はアジア大会の時に「トム(ウィスマンHC)のバスケットは決まり事がわかりやすく、チームに浸透するのが早かった」と手応えを語り、今年、代表に復帰した柏木は「トムのバスケットは徹底することをやっているので今までの代表とは違う」と、東アジア選手権で中国B代表に逆転勝利したときに実感していた。徹底していたのは、ディフェンスのプレッシャーをかけることだった。

大会を通して攻め気が見えた広瀬健太。プレイを安定させることが課題

しかし、ディフェンスでプレッシャーをかけられなかった日本は、小さなズレがリズムの悪さを生み、戦うコンセプトを見失わせた。堂々巡りになるが、今大会なぜ、プレッシャー・ディフェンスを出せなかったかといえば、「今年はケガでメンバーが変わっていくうちに、練習で“これ”というディフェンスが作れなかった」と、昨年と比較して桜井が大会終了後に答えている。日本はチーム作りにおいて、ディフェンスの信頼関係を作ることができなかった。明らかに準備不足だったのだ。

だが、ケガ人が多発していたのは何も日本だけではない。今大会はどこの国もケガ人が多発した中で苦しい台所事情を抱えながらも、軌道修正しながら真剣勝負を挑み、その中でチームを成長させていたのだ。

一人一人が目標に向かう思いこそが、コートで熱を発する。それがいわゆる「戦う姿勢」だ。日本は勝負がかかった試合では、コートから熱を感じることができなかった。「ロンドン」はそれほど強く願う目標ではないと感じてしまうほどだ。日本の選手たちは、自分たちがコートで熱を発していないことに気がついているのだろうか。

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