伝統校と新鋭校が激突!
男子準々決勝に見る高校バスケットの今――

文/渡辺淳二  写真/高野 洋

尽誠学園がベスト4を決めた瞬間。この後さらに結束し、沼津中央を下して決勝進出を果たした

どうして高校バスケットは人の心をつかんで離さないのだろうか。2012年の高校バスケットを楽しむ前に、昨年暮れに東京体育館で開催されたウインターカップを振り返り高校界の現状をとらえておこう。全国優勝の経験がある伝統校と新鋭がそろって相まみえた、男子準々決勝に見る高校バスケットの今――。
 

四国勢として初めての快挙──尽誠学園

司令塔として、得点源として攻撃的な姿勢で引っ張った笠井

 今大会、ノーシードから勝ち上がり旋風を巻き起こした香川県代表の尽誠学園。2回戦で4年連続準優勝の福岡第一(福岡)、準々決勝で4度の優勝を誇る洛南(京都)との接戦を制し、香川県勢としては1978年の県立高松商業以来となるベスト4(※ただし全県出場となってからは初めて)。さらに準決勝でインターハイベスト4の沼津中央(静岡)をも下し、準優勝に輝いた。香川県のみならず四国勢として初めての快挙である。
 
 尽誠学園はどうして洛南などの名門に屈することなく、ベスト8の壁を乗り越えて大躍進を遂げることができたのか。色摩拓也コーチがこう語る。

「今年のチームの目標は『日本一』でした。まわりには鼻で笑われても、そのために練習してきたのです。ベスト4とかベスト8とか意識せず、一戦一戦を戦おうと」

 一つ目の勝因はこの目標設定にある。夏のインターハイで福岡大附大濠に敗れたあと、その目標がぶれ出した時期もある。それでも、「毎日、練習がしんどかったけど、みんなが弱音を吐かずにやって来た」という。そう振り返るのは、日本代表候補42名の中にもリストアップされている高校2年生、渡邊雄太だ。2メートル近い身長でガードができるほどの能力を持つ渡邊を筆頭に、バランスのとれた布陣も勝因の一つだが、それでも色摩コーチは采配面での工夫を怠らなかった。

「力のあるチームではないので、相手チームをスカウティングしたうえでスタメンを変えている」

 6試合目となった決勝こそ、シードされて5試合目の延岡学園とのコンディションの差が如実に現れたが、色摩コーチは納得の表情だ。

「大会を通じて、『我慢』をキーワードにして戦ってきましたが、選手がそれを徹底し戦い抜いてくれました」

 もはや『日本一』という目標設定に笑う者などいない。来年度最も注目したいチームの一つであり、上位進出を阻まれ続けた四国ブロックが強豪チームを輩出したことに意義を感じる。そういう意味では、北海道ブロックや中国ブロックの活躍にも今後、期待したいところだ。女子は札幌山の手(北海道)が2連覇を遂げ、中国ブロックの女子も1993年に誠英(※当時は三田尻女子)が準優勝を飾っているが、男子は4強に入っていない。次回のウインターカップは、東京体育館が改装工事に入るため、広島県で開催される。これを機に高校バスケットにまた新たな魅力を注いでほしい。
 

自分で山を走る留学生──沼津中央

これまで来日したセネガル人留学生の中でも身体能力が高いソウ・シェリフ

 ウインターカップで初のベスト4となったもう一つのチームが沼津中央(静岡)である。しかし、夏のインターハイでもベスト4に入っているだけに、杉村敏英コーチは喜びというより、安堵感を漂わせる。

「(準々決勝を勝って)終わってよかった。選手も勝たなきゃいけないというプレッシャーがあるね。硬い。ウインターカップのステージは違うね。選手たちものまれている」

 そうなると大抵の場合、ベスト8の壁にぶち当たるものだが、それを乗り越える高さを持っているとやはり違う。豪快さとうまさを併せ持つセネガル人留学生、ソウ・シェリフ(201cm)の存在はとてつもなく大きかった。杉村コーチが彼をこう評する。

「日本一になるためにセネガルから来たんだ、っていうプロ的な意識がある。自分で山を走ったり陰で努力しています。精神的にも成長してくれました」

 今大会男子でセネガルからの留学生が所属していたチームは、この沼津中央と、優勝した延岡学園(宮崎)、そして八王子(東京)と福岡第一(福岡)の4校だ。一部登録上で不手際があったのは残念でならないが、選手自身は日本人選手と同じように努力し、そして壁にもぶつかっている。3位に留まった沼津中央のソウが大会をこう振り返る。

「(尽誠学園の)ゾーンディフェンスから得点を取るのが大変でした。ゴール下でパスをもらいたかったけど、どう動いても人がい
るようなゾーンでした。僕がディフェンスしていてもよく動いて攻めてくるようなオフェンスは嫌でしたね」

 沼津中央は新チームにもセネガルからの留学生が入るようだ。次はどんな選手なのか楽しみだ。
 

県立高校の最後の砦──宇都宮工

インターハイはベスト4、ウインターカップはベスト8。エース橋本を擁し、初づくしの1年だった宇都宮工

 203㎝のオールラウンダーで日本代表候補の橋本晃佑を擁し、夏のインターハイでベスト8の壁を乗り越えた栃木県立宇都宮工。1993年地元インターハイで、現在、宇都宮工を率いている千村隆コーチが、鹿沼東をベスト8に導いて以来の好戦績だったことを見ても、今シーズンがいかに特別な年だったかが分かる。だが今大会、県立宇都宮工は準々決勝で福岡大附大濠に敗戦。千村コーチが肩を落とす。

「頂点を狙うつもりでチームを作って来たが、ツキがないのかな」

 スタメンの2年生ガードが大会直前に負傷し戦線を離脱。代わりに入った3年生も健闘したが、「ガードが欠けると別のチームになってしまう」と、チームとしてベストの状態でないかぎり、乗り越えられない壁であることを千村コーチは示唆した。

「県立高校の最後の砦として、県立高校を引っ張りたかったんだけどね」と千村コーチ。

 蓋を開けてみればベスト8の8チーム中、県立高校はこの県立宇都宮工だけだ。2004年に秋田県立能代工が2連覇を遂げて以来、私立の高校が優勝を続けていることからも、公立高校が上位を狙う難しさは確かにあるのかもしれない。

 ちなみに今大会、男子は参加50チーム中、公立は26校(市立を含む※女子は市立と府立を含めて21)。意外にも半数以上のチームが公立でありながら今大会への勝ち名乗りを上げたわけだが、選手をそろえる体制や練習時間の確保といった環境面では、やはり私立のほうが整えやすいというのが現状のようだ。

「今年でゼロ。(2年生が)2人ケガしているからマイナスからのスタートですよ」
 
 千村コーチは新チームについて、苦しい胸中をそうのぞかせた。
 

いつかは指導者として日本一──前橋育英

自身もウインターカップ準優勝の経験を持つ安西コーチ

 夏のインターハイに続きベスト8の戦績を残した前橋育英(群馬)。優勝校・延岡学園(宮崎)との準々決勝では、前半を同点で折り返す健闘を見せた。しかし勝負どころで延岡学園のエース、ベンドラメ礼生にスティールを2本連続で許し、ゲームを一気に持って行かれてしまった。

「ミスを一回で切れない。ミスが続いてしまうところが、うちの選手と、絶対に負けられない意地を持つ相手との差です」

 そう悔しさをにじませる前橋育英・安西智和コーチ。「いつか波が来るから走り続けろ」と言い続け、セネガル人留学生を擁する相手を越えるチャンスが見えてきていた。その矢先、平面の攻防で延岡学園に波を奪われる形となってしまったのだ。

「僕自身も(高校時代)、2年連続ウインターカップで準優勝。まあ、いつか、指導者として日本一になりたいですね」

 そう言葉を残し、壁の向こうに目を向ける安西コーチ。土浦日大のエースとしてウインターカップで大暴れしたのを経て、トップ
レベルでもプレイ。指導者として東京体育館に帰って来たそうした面々が他にも登録されていた。

 秋田県立能代工の佐藤信長コーチは言うに及ばず、安西コーチのいすゞ自動車時代のチームメイト、興南(沖縄)の井上公男コーチ。そして愛知産業大(愛知)のアシスタントコーチとしてベンチに入っていた沖田真氏は、三菱電機の司令塔として活躍した。さらに金沢(石川)の大舘慶徳コーチは熊谷組に所属していた。そして今大会ベスト16と健闘した金沢が来年度、地元インターハイを迎える。

 同地で笑うのは尽誠学園か、留学生を擁するチームか、それとも県立高校が健闘を見せるのか。2011年ウインターカップの終幕は、2012年の高校界の始まりだと思うのだが、ちょっと気が早いか!?