選手選考・遠征の成果・戦い方・大会目標を聞く
「これまでチャレンジしてきた。大事な大会でいい結果を残せる自信はある」

文・構成/宮地陽子  写真/小永吉陽子


 いよいよ、9月15日から男子バスケットボールのアジア選手権(ロンドン五輪予選)が始まる。アジアからオリンピック出場権を獲得するのはわずか1ヶ国。前回のチャンピオン、イランや、東アジアでは断トツの強さを誇る中国、日本にとって宿敵とも言える韓国など強敵を倒し、頂点に立たなくてはいけないわけだ。とてつもなく困難な道のりに思えるが、それでも「アジアの国がオリンピックに出るにはアジアで優勝することが一番可能性が高い道」(トム・ウィスマン・ヘッドコーチ)だと言う。

 しかも、ただでさえ困難な道を、チームのリーダーで主戦力となるはずだった田臥勇太抜きで戦わなくてはいけない。夏前から抱えていた足底筋膜炎の回復が間に合わなかったのだ。身長210cm、世界に対抗できるサイズを持つ青野文彦も指の腱を痛める故障でロスターを外れた。彼らの代わりには、ジョーンズカップで健闘した若手チームから、正中、太田、松井の3人が最終ロスター入りいした。

 それにしても、今年の男子代表は、6月に国内でドイツのクラブ・チーム相手に親善試合を行って以来海外遠征続きで、遠征中の勝敗以上の情報が少ない。チームはいったい、どんな状態でアジア選手権を戦おうとしているのだろうか。なぜ、この最終ロスターとなったのだろうか。自分たちの代表でありながら、ベールに包まれた謎のチームのようだ。

 そこで、大会を前にベールをはがすべく、9月7日、大会直前合宿初日の練習を終えたトム・ウィスマン・ヘッドコーチに、海外遠征の意図と成果、田臥や青野の故障から、最終ロスターを決定するに至った経緯、帰化選手が入らなかった理由、そして大会への展望など、様々な疑問をぶつけてみた。

 ウィスマン・ヘッドコーチも丁寧に答えてくれたため、長文インタビューになったが、ぜひ最後までじっくり読んでほしい。これが、私たちの代表なのだから。

(9月7日、NTCにて。質疑の一部は囲み取材より抜粋。ただし、似た話題をまとめて掲載するため、一部、質問の順序を入れ替えています。囲み取材者/宮地陽子、小永吉陽子、三上太、松原貴実)

タフだった中南米、ドイツ遠征。コテンパンにやられたが、長い目で見ればいい経験

──中米遠征、ドイツ遠征と、どちらもタフだったと聞いていますが、フィジカル面、メンタル面での成果はありましたか?

遠征は、よりタフになってほしいと思って組みました。タフになるには、タフなチームと対戦するしかありません。コテンパンにやられもしましたが、それは長い目で見たときにはいい結果になると思います。(ドイツで)5試合全部負けたばかりなので、今はまだ少し落胆していますが、大会が始まれば、そういった経験の成果が出ると思っています。

ドイツで対戦したうち、2つのチームはユーロリーグやユーロカップに所属するチームでした。今のユーロリーグはNBAの少し下と言える、レベルの高いリーグです。対戦したバンバーグ(ブロス・バスケット・バンバーグ。ユーロリーグ所属)とグローニンゲン(オランダのチャンピオン、グローニンゲン・ガステラ・フレームス。ユーロカップ所属)はどちらも強くて選手層も厚く、世界中のどこと比べても見劣りしない高いレベルの中でプレーしています。選手もNBAのチームでもプレーできるぐらいのレベルでした。そういったチームと対戦できたのはいい経験でした。

バンバーグを相手には前半は47-47と互角に戦うことができました。彼らのような厚い選手層がなかったため、後半はついていけませんでしたが。グローニンゲン相手にも、後半だけを見れば32-30でリードすることができました。そういったいいバスケットボールはできています。40分間継続することができなかっただけです。40分の試合では、彼らのほうが私たちより強かったわけですが、これらの試合でもやれたことがあったのは収穫だったと思います。

残りの3チームに対しては、少なくとも1勝はあげるべきだったと思いますし、勝てる試合を落とし、勝ちきれなかったことにがっかりしています。

──アジアではなく中米やドイツを遠征の行き先に選んだのはどんな理由だったのでしょうか?

フィジカルに強く、私たちよりレベルが上のチームと戦うことによって上達するための遠征でした。また、私は後に勝たなくてはいけない相手と戦うことは避けるようにしています。クラブチームの場合でも、プレシーズンではシーズン中に戦うチームではなく、違うチームと戦うようにしていました。

──手の内を隠しておきたいからですか?

相手が慣れてしまわないようにという意図です。同じチームと対戦し、自分たちのプレーを見せることで得るものはそう多くないと思っています。今回の代表にとっては、この先(大会で)向かい合わなくてはいけない問題を考えると、(アジアを離れて)よりレベルの高い相手と対戦するほうがいいだろうと思ったのです。実際、遠征はチームにとってはプラスになったと思っています。ただし、同じことを毎年やると言うわけではありません。今年は、アジアから離れ、大会前に戻ってくるというやり方をとるのにいい年だと思ったのです。

──だから、A代表ではなくBチームをジョーンズカップに送り込んだのですね。

そうですね。ジョーンズカップに出場すると約束した時点ではどのチームが出場することになるかはわかっていませんでした。あれだけ各国のA代表チームが出てくるかどうかも、まだわかっていませんでした。結果的にはいい大会となりました。若手選手たちもよく頑張ってくれましたし、あの経験はプラスとなりました。

ただ、A代表にはもっと高いレベルの競争が必要だと思ったのです。実際、私たちは遠征で、より高いレベルのチームと対戦することができました。対戦したチームすべて、ベネズエラ代表、メキシコ代表、ドイツとオランダで対戦したチーム。それまでよりも高いレベルのチームと試合をすることができました。それが、大会に向けて自分たちの力となることを願っています。

どうなるかはこれから次第です。私はシェフのようなもので、鍋を混ぜているけれど、まだどんな味がするかわからないのです(笑)

脚を使ったディフェンスで相手を惑わせるのが日本のスタイル

────東アジア選手権(6月、中国・南京)の時はディフェンスをマンツーマンで試している段階でした。海外遠征等を通じて、どのようなチームになったと手応えがありますか?

今までいろいろなディフェンスを試してきました。基本的に私たちのスタイルは変わっていません。ハーフコートでプレッシャーをかけてボールを奪い、フルコートのスピードあるオフェンスにつなげていくことを基調にしたチームです。マンツーマンも試しましたし、ゾーンも試しましたが、基本はプレッシャーをかけることです。ひとつのディフェンスを長い間やろうというよりは、チェンジング・ディフェンスを用いて、その中からフルコートのアタックしていていきます。他の戦い方があるとすれば、青野選手がコートに出ているときはまた違った高さを生かした戦い方ができますが、彼は今回ケガをしてしまって招集することができなくなってしまったので、自分たちとしては、より強固な意志を持って自分たちのスタイルを徹底していくことを考えています。

──オフェンスはフルコートのオフェンスが主体となると思うのですが、ハーフコートのオフェンスになったときにどうするかという課題に対して、遠征での成果を教えてもらえますか。

私たちは、ヨーロッパのチームよりはハーフコートでのオフェンスが下手だということはわかりました(笑)。そのことはわかっています。実際、ハーフコートのゲームに持ち込まれたときに負けてしまったわけです。それでも、そういった経験をしたことで、私たちのハーフコート・ゲームは向上したと思っています。ハーフコートではより高いレベルのプレーをしてかなくてはいけないわけで、ヨーロッパのチームも中米のチームも、ハーフコートのオフェンスとハーフコートのディフェンスがうまいチームでした。そういったチームと対戦したことで、ハーフコートのオフェンスを向上させることができたと思います。

また、遠征では何人かの選手を欠いていました。川村が戻ってきたことは違いとなると思います。また、川村がいない間にKJ(松井)が貢献してくれたり、他の選手も得点面で貢献するなど、その面でも向上させることはできました。ですから、私たちのハーフコート・ゲームはさらによくなっていくと思います。

その一方で、選手たちには、ハーフコートの攻撃を一度もやらなくてもいいのなら、それでも満足だとも言っています。オフェンスが試合を通してすべてフルコートでも構わないと言っています。

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