男子FIBAアジア選手権 準々決勝
負けたら終わりの準々決勝、戦った7チームと戦わなかった日本

文&写真/小永吉陽子

男子アジア選手権 海外チームレポート<6>

一発勝負に挑んだ7チームと無策のまま敗れ去った日本

アジア2連覇中のイランがヨルダンに敗れる波乱

ベスト8が出揃い、準々決勝からはトーナメント方式となる。準々決勝の第一試合で2連覇中のイランがヨルダンに敗れる波乱が起きた。その直後、アリーナが異様な空気に包まれる中で日本vs韓国が行われたが、日本は韓国にただ一方的にやられるままに完敗を喫した。ベスト4にはヨルダン、韓国、フィリピン、中国が進出。他のチームが一発勝負に臨んでいたのに対し、日本だけが何もせずに敗れ去ったことが悔しくてならない。一発勝負・準々決勝をレポート。
 
負けたら終わりの決勝トーナメント
取り返しのつかない過ちを犯したアジア王者

イランに勝利し、歓喜に沸くヨルダン

 王者らしからぬ敗退だったのか、王者だからこその敗退だったのか――。アジア3連覇を目指すイランが力を出し切れずに準々決勝で敗退した。

 イランは出足からおかしかった。いや、自分たちでおかしくしていた。ヨルダンとは過去にはジョーンズカップでの乱闘事件や、2年前のアジア選手権準決勝での大接戦など、因縁の対決を繰り返してきたにもかかわらず、今大会のヨルダンの低迷ぶりを見て判断したのか、あまりにも簡単に試合に入ってしまった。悪く言えば「ナメていた」。2次リーグ最終戦、韓国との大一番を制したことで、どこか安心していたのかもしれない。

 前半、イランはエースの#14サマッド・ニックハ・バハラミを温存。そして、ガードの#6ジャワッド・ダヴァリをケガで欠いてしまったことで、#14バハラミと#6ダヴァリのスタメン2人を変えた布陣になった。#14バハラミは昨年から膝にケガを抱えていて、中国人の指圧ドクターに治療してもらいながら試合に臨んでいた。そして、追い打ちをかけるかのように、2次リーグ最終戦の韓国戦で足首を痛めてしまったことが懸念材料となっていた。

 それでも、選手層の厚さ、仕上がりぶりを見れば、イランの優位は動かなかった。

 バハラミは万全ではないかもしれないが、指圧ドクターの治療のかいがあってか、本人は「いつでもOK」という素振りでベンチでも出る気満々だった。しかし、マティッチHCはバハラミを温存した。できることなら使いたくなかったのだろう。初戦のチャイニーズ・タイペイ戦ではチーム全体のコンディションが整わず、47点しか取れない中で劣勢をひっくり返したのもバハラミの力だった。ダヴァリの穴は豊富なガード陣が埋めることはできても、やはりチームの核は必要だったのだ。その核が出なかった前半は「何となく」試合をしていたために、ヨルダンの妙な粘りに互角に持ち込まれた。

 後半に入ってイランは、そろそろエンジンをかけなければ、とばかりに、バハラミを投入するが、前半に余裕を出しすぎたツケは、ヨルダンのディフェンスが機能してきたことによって「自分たちのリズムにならない」という苦戦へとつながっていく。

ヨルダンの勝利の立役者となったラシーム・ライト(左)とオサマ・ダグラス

 ルーズボールはヨルダンの手に回り、入らないようなシュートまで入ってしまう。しかしそれは、ヨルダンがこれまでより速い展開に持ち込もうと、足を動かし続けていた結果だったのかもしれない。

 ヨルダンが「もしかしていけるかも…」というムードになっていく一方で、イランはディフェンスが締まらないため、するつもりがなかったファウルまで犯してしまい、フリースローを与えてしまう。ヨルダン#10オサマ・ダグラスは4Qだけで10本中8本のフリースローを沈めている。

 残り1分でヨルダンが逆転。「こんなはずではない…」という焦りが、#10ハメッド・アファグから、大黒柱#15ハメッド・ハダディへのとんでもないパスミスへとつながる。これまで何本も大黒柱へのパスを送ってきた主力たちが「信じられない」という顔をする。最後はハダディまでもがテクニカルファウルを取られた。30秒を切って何度もタイムアウトを取り、必死に挽回を図るイランだが、時すでに遅し――。

 試合終了3秒前、掲示板は85-81を示していた。あきらめたイランのマティッチHCはブザーがなる前にヨルダンのボールドウィンHCにみずから握手をしにいった。「大事な一戦に、きちんとゲームに入る指示ができなかった自分のせい」――といわんばかりに。

「ハダディは解放していいので、その代わり他の選手を抑える指示をやってくれたのと、やはり向こうはケガ人がいて本調子ではなかったことで、私たちに運もあった」とヨルダンのボールドウィンHC。

 数日前、日本とフィリピンに敗れて「メンタルの弱さに失望している」と発言した指揮官の顔には笑みが浮かんでいた。失望から戦うチームへ。王者イランの油断があったにせよ、立ち向かわなければ、この結果は転がってこなかった。いったい何がヨルダンを変えたのだろうか。

 試合が終わった時点でひとつだけわかるのは、ヨルダンは勝負をする「準備」をして試合に臨んだということ。イラン戦の前に「我々が勝つためには、しっかりイランのバスケットを把握してスカウティングをして臨むこと」とボールドウィンHCが語っていたように、指揮官はロンドンへの道をあきらめてはいなかった。その指示を選手たちが遂行したのだ。メンタルが落ちていた選手たちが指示を遂行するには、試合中にひとつひとつのプレイを成功させて自信にしていくしかない。ヨルダンはそれを準々決勝という一発勝負の可能性にかけてやってのけた。余裕をもって前半を「遊んで」しまったイランにとっては、悔やんでも悔やみきれない一戦だろう。
 
戦う以前の弱さを露呈した日本
準備をしたものを出した韓国

日本に対してオールスイッチディフェンスを仕掛けてきた韓国

 第一試合のイランの敗北によって、どの代表チームも、観客も、取材をするメディアも、今日からは「一発勝負」であることを再認識させられた。3連覇を狙うイランは明日からは決勝トーナメントのコートにいないのだ。

 イランの選手が「失敗をしてしまった…」というような顔をしてコーから去っていくのと同時に、次の試合を行う日本と韓国の選手がコートに足を踏み入れた。中国メディアはイランの敗北に大喜びし、中国のスタッフはプレスルームに試合のスタッツ(試合の個人記録)をもらいに走りに行っていた。報道陣は勝ったヨルダンよりも負けたイランのコーチや選手に取材が集中していた。それぞれの立場でいろんな思いが交錯し、「負けたら終わり」という異様なムードと緊張感が漂う。しかし、その輪にすら入れなかったのが日本だった。

 日本はイランではないのに、イランと同じような立場ではないのに「何となく」試合に入っていた。試合の出足からあまりにも簡単に許したシュートの数々。韓国は司令塔のエースガード、#6ヤン・ドングンが2次リーグのイラン戦で足首を痛めて出られない状況だったため、力の落ちる2、3番手ガードが出ていて、気迫の面ではいつもよりソフトに感じたほどだ。

 それでも、前半から#8ムン・テジョンと#10チョ・ソンミンの3Pシュート、状況を見極めて攻める#12キム・ジュソンの巧さ、そして今大会、なかなかコンディションが整わなかった221㎝のセンター、#13ハ・スンジンにまでゴール下でやられ、前半で最大25点差をつけられ、最終的には86-67、19点差で敗れた。

勝負強さを見せつけた韓国のシューター、チョン・ソンミン

 97年以降、A代表の公式戦で日本に勝ち続けている韓国は、日本に対しては絶対の自信を持ってはいるが、このゲームに関しては慎重に準備をしてきていた。記者会見ではあまり語らない韓国ホ・ジェHCが、試合後、韓国記者に囲まれたときに、本音をもらしている。

「思いのほか簡単に勝てたゲームだった。私たちは前日に川村を抑えるためのオールスイッチのディフェンス練習を徹底してやってきた。それがよくできたと思う」

 オールスイッチのディフェンスは川村を3Pシュート1本に抑えたばかりではなく、日本に攻めるスペースを与えなかった。日本はもともとの苦手意識に加え、韓国の「予想外」のディフェンスに手も足も出せずに混乱した。はたからみれば、あまりにも簡単に韓国が勝った試合のように見えるが、韓国としても落とせないこの一戦は用意周到だったのだ。だからこそ、何もしてこない日本に対して「思いのほか」という感想が出てきたのだろう。

 2次リーグに入ってから日本の戦い方には疑問が残る。いちばんの疑問は、日本は「プレッシャーディフェンスからのオールコートのバスケット」を展開するチームであったはずなのに、ディフェンスで引いてしまったこと。韓国のシュートパーセンテージが良かったのは、日本がソフトなディフェンスをしていたからだ。1Qで12点差、2Qで最大25点差をつけられたにもかかわらず、早めに何かを修正した点もなかった。3Qには一時9点差まで詰めた。しかし、そこからもうひと踏ん張りすることなく、前半と同じくズルズルと引き離されていった。選手からも「負けたくない」という意志が感じられなかった。終盤に敗戦の色が濃くなったとき、ベンチの声は沈み、コートの選手は淡々としていた。この試合は「負けたら終わり」の準々決勝であるはず。日本の戦いを見ていると、まるでただの親善試合にしか見えない。これはオリンピックをかけたアジア選手権なのに。

負傷のため万全なコンディションでコートに立てなかった竹内譲次。ベンチから声を出していたが、終盤にはチーム全体が意気消沈してしまった

 日本のあとに行われたチャイニーズ・タイペイ対フィリピンはフィリピンが95-78で勝利したが、チャイニーズ・タイペイは最後までベンチもコートでも声を出していた。後半、メインガードの#6リー・シュェリンが目の上を切って担架で運ばれるアクシデントがあり、選手たちの心が折れそうになったが、それでも、もう一度、逆転射程距離に持ち込む姿勢を見せた。

 レバノンはコントロールゲームに持ち込んで中国に対抗した。後半はインサイドを支配されて力負けするものの、前半はやれるだけのことを出した。日本以外のチームは“一発勝負”の準々決勝を戦っていたのだ。

 勝ちにいくための「準備」をしてこなかったチーム、仕掛ける「勇気」がないチームはベスト4に上がる資格などない。無策のまま敗れ去った日本は、ロンドンへの道が断たれた。
 
 
 【準々決勝】
ヨルダン 88-84 イラン
韓国 86-67 日本
フィリピン 95-78 チャイニーズ・タイペイ
中国 68-48 レバノン