司令塔として、キャプテンとして背負ったJBLファイナル
柏木真介 ~覚悟の涙~

文・写真/三上 太

トヨタの歓喜の瞬間を見つめるアイシンの選手たち

「泣かないつもりだったんですけどね…まぁ、来シーズン、頑張りますよ」

 アイシンシーホースの柏木真介はそう言って、ファンの待つ出口へと向かった。

 泣くつもりはなかったが、あふれ出てきた涙――柏木はそれほど今シーズンの優勝にかけていた。勝ちたい。来シーズンではなく、今シーズン、どうしても勝ちたい。そう強く思っていたからこそ、涙を抑えきれなかったのである。
 
 
 
 

敗因を探ればポイントガードに行きつく

若い選手が成長を遂げた今シーズンは新しいアイシンの始まりだった

 一昨年のファイナルでリンク栃木ブレックスによもやの3連敗を喫し、3連覇を阻まれた柏木は、今シーズンのファイナルを「リベンジの舞台」と捉えていた。

 2年前の敗戦だけではない。昨シーズンを終えたところでチームの大黒柱であった佐古賢一が引退し、主力の網野友雄(リンク栃木)、竹内公輔(トヨタ自動車)も移籍していった。柏木と桜木ジェイアールが残ったものの、シーズン前の下馬評は決して高くなかった。その評価を見返してやりたいという気持ちもあったのだ。

 結果としてレギュラーシーズンを1位で通過できたのは、それらの思いに、これまで以上の「チーム力」を積み上げることができたからだろう。セミファイナルのパナソニック・トライアンズ戦も、第3戦までもつれはしたが、最後はチームの力で勝ち上がっている。

 あと3つ。3つ勝てば、リベンジとともに、新生アイシンの強さを証明することができる。それほど強い思いで臨んだはずのファイナルステージだったが、どこかチームの歯車が狂ってしまう。初戦こそ逆転で勝利を収めることができたが、2戦目は
「全然アイシンらしくない。バラバラです。それだけです」と柏木が吐き捨てるほどの内容で敗戦。3戦目以降はトヨタ自動車が実践する「タイムシェア」、つまりは10人前後の選手が出場時間を分散させながら戦う超組織的なバスケットに体力面でついていけなくなり、連敗。リベンジは叶わなかった。

 アイシンの敗因を探れば、さまざまなところにそれを見つけることができる。1つは集中力の欠如。トヨタ自動車はアイシンのキーマンである柏木と桜木を徹底的にマークした。特に柏木については同じポジションのプレイヤーではなく、ドナルド・ベックヘッドコーチが「チームの中で一番いい、ボールマンへのディフェンダー」と言うシューティングガードの岡田優介と熊谷宜之を当てがい、アイシンのリズムを乱そうとした。岡田と熊谷もファウルすれすれの激しいディフェンスでヘッドコーチの期待に応えた。それに対して柏木は「試練のようなもの」と言いながらも、代わるがわるに受ける激しいディフェンスと、なかなか鳴らない笛に苛立ちを隠せないでいた。

ファイナルでは岡田と熊谷の執拗なマークに苦しんだ

 それが最悪の形として現れたのが第4戦の第3クォーター。柏木は立て続けにファウルを犯し、ベンチに下がらざるを得なくなっている。アイシンの鈴木貴美一ヘッドコーチは試合後に

「ガードがああなっては絶対にダメ。ガードは絶対に冷静でいなければいけない。(柏木の特長でもある)負けん気を持ってプレイすることは大事だけど、もしガードにトラブルが起きたら、バスケットは絶対に勝てない」

 と言っている。ある意味で、ゲームの雌雄が決した瞬間といってもいい。

 チーム力にも大きな差はあった。レギュラーシーズン同様、出てくる選手がそれぞれの役割を徹するトヨタに対して、アイシンはレギュラーシーズンのようなチームプレイができなかった。チームでレギュラーシーズン1位の座を勝ち取ったアイシンの若い選手と外国人選手が、ファイナルではその経験のなさから自分たちのスタイルを見失い、若手は受けに回り、外国人選手は個のバスケットに走ってしまったのだ。第2戦が終わったとき、柏木はこんなことを言っている。

「もう少し(インサイドでプレイする)外国人選手は(アウトサイドでプレイする)日本人選手のことを信じていいと思うし、日本人選手も外国人選手がインサイドでプレイしようとしているのだから、連携したプレイをしないいけない。そうしないとチームとしての流れができない。日本人だけが頑張ってもダメだし、外国人だけがひとりで頑張ってもダメ。そんなことをしていたら、トヨタのほうが能力は高いんだから絶対に負けるし、今までウチが何をして勝ってきたのかをもう1度確認しないと…」

 第3戦以降、このことは少しずつ修正の兆しを見せるのだが、最後まで完全な修復はできなかった。劣勢になればなるほど1人ひとりが何とかしようと考えすぎて、もしくは桜木に頼ろうとしすぎて、線にならない。 ただし、それも見方を変えるとポイントガードである柏木にチームをまとめあげる力がなかったとも言える。

 

再び立ち上がるための悔し涙

キャプテンとして、司令塔として、若い選手たちを牽引してきた柏木

 でも、だからこそ、柏木のこれからが楽しみなのだ。30歳を超え、大小のケガも抱えているが、スピードとパワーはまだまだ衰えていない。イージーなシュートを落とす場面もいくつかはあったが、全体的なシュート力は上がっている。そして何よりも今回は仇となったが、相手と“闘う”気持ちに陰りがない。

 主力が3人も抜け、1からチームを作り直さなければいけなかった今シーズン、思わずキャプテンに指名された柏木は、

「来シーズン優勝することも嬉しいとは思うけど、3人が抜け、ボクがキャプテンに指名されたシーズンだからこそ、今シーズンはどうしても優勝したかった」

 と言っている。シーズン当初の思いがよみがえってきたとき、それまで堪えていた涙があふれてきた。名実ともにチームリーダーとなりながら、チームを頂点に導くことができなかった悔しさ。涙をぬぐいながら、柏木は続けた。

「これまでこんな経験をしたこともなかったし…今回負けたことで、チームもそうだけど、自分自身としてもこれまでとは違う経験ができたので、その部分を来シーズンにつなげていければと思います。正直、今回のファイナルは大変でした。でもみんながいたからボクも頑張れたし、みんなが一生懸命プレイしてくれるから、ボクも最後まで引っ張っていかなければいけないという気持ちを持てました。本当に今回のファイナルはボク自身にとって得るものが大きいファイナルになったと思います」

 柏木の悔し涙を見るのは2度目である。1度目は日立サンロッカーズ時代、セミファイナルでトヨタ自動車に敗れて「自分が何をしていいのかわからない」と2年目の彼は涙を流した。そのオフ、彼はアイシンへの移籍を決めている。

 そしてその2年後、リーグが「JBL」になった最初の年にアイシンはリーグを制し、その優勝記者会見で柏木は佐古から「真介は日本一のポイントガードになった」と評価された。それまでは体の強さと運動能力にまかせたプレイをしていたポイントガードが、佐古の下で少しずつゲームコントロールを学び、ついにスタメンポイントガードとしてチームをリーグ制覇に導いたからである。

ともに年間ベスト5を受賞したライバル・正中(トヨタ)を労う柏木

 しかし2度目の悔し涙を見せた今回、柏木はチームの司令塔としてゲームコントロールを強く意識するあまり、自ら攻める場面とそれとのバランスをうまく見極められずにいた。いや、実際には「攻めようと思えば攻められるし、相手からファウルを誘うこともできるけど、自分がボールを持ちすぎるとチームとしての流れがよくならない」と判断し、自らの攻撃能力を殺していた。一方でパスを受けるはずのチームメイトもトヨタ自動車の激しいディフェンスに見動きが取れず、パスを展開することができなかった。

 自分は何をしたらいいのか――柏木は今回のファイナルでもその答えを探していた。そして第4戦が終わり、コート上でトヨタ自動車の選手たちが喜ぶ姿をベンチで見ながら、もう一度、そう思っていたに違いない。

 だがその思いは6年前のそれとは違う。涙の意味も違う。同じ悔し涙でも6年前の涙はただ悔しくて流した涙だが、今回の涙にはチームリーダーとしての「責任」が伴っている。次こそは優勝に導くんだという「決意」も込められている。そして、もう一度日本一になるために立ち上がろうとする「覚悟」の涙である。

「ポイントガードとしてまだまだやることはいっぱいあると思います。個人の能力とか、1対1がどうこうではなくて、チームを勝たせるために何をしなければいけないのか。精神的な部分も含めて、身につけなくてはいけない要素がたくさんあると思います。今回の負けを経験したことはチームにとっても、ボクにとっても大きな課題になると思うので、しっかりと次につなげていきたいと思います」

 堪え切れずに流した涙を、柏木真介はけっして忘れない。