男子ファイナル 筑波大 vs 東海大
リーダーの名のもとに

文/松原貴実  写真/小永吉陽子 

インカレ3連覇を果たした筑波大。激しいディフェンスのぶつかり合いを制した

2016 インカレストーリー

リーダーの名のもとに

3連覇の偉業に挑む筑波大と、なんとしてもそれを阻止したい東海大。
3年連続同じ顔合わせとなったインカレ男子決勝。
4年生にとって最後の大一番となるこの舞台には今年もまたいくつかのドラマがあった。
とりわけ1年を通してチームを牽引した2人のキャプテンの胸にはこの一戦に懸ける熱い思いがあったはずだ。
リーダーという名のもとにコートに立ち、戦い抜いたそれぞれの姿を追った。

 
 
――覚悟――
優勝・筑波大#46 生原秀将

 優勝後の第一声は「本当にうれしい。同時にホッとしています」――3冠という偉業を成し遂げたキャプテンの正直な気持ちだったに違いない。

 春のトーナメント、秋のリーグ戦を制した今年の筑波大は『インカレ優勝も間違いないチーム』と言われ続けた。「勝ってあたりまえ」の空気が流れる中、足を痛めた生原が練習に合流できたのはインカレのわずか2週間前。自分ができることを全力でやり切ろうと心に決めたものの、『キャプテンとしてチームを3連覇に牽引する』というプレッシャーは思いのほか大きく胸にのしかかった。

 決勝戦の相手は自分が予想していた通り、3年連続の東海大。

いくはらしゅうすけ/183㎝/徳島市立高出身/
ポイントガードとして、キャプテンとして、自分にしかできないリーダーシップを考え続けた1年

「東海大の怖さはやはり泥臭さです。スタッフを含め全員で戦っているというか、その結束力も武器になっていると思います。個々の力では間違いなくうちが上回っているかもしれませんが、それだけでは勝てない。去年もおととしもあれだけ強いと言われた東海大が負けたのと同じようにインカレの決勝では何が起こるかわかりません。東海大は敵にまわすと本当にやっかいな、嫌なチームです。けど、このインカレ決勝の相手はやっぱり東海大じゃないと嫌だと思う自分がいます。自分にとって東海大はそういうチームです」

 自分のことを『高校時代まで無名の選手』と評する生原は、筑波大に進んでから『ゲームを読むクレバーな選手』として頭角を現した。昨年は3年生ながらゲームキャプテンを任され、チームをインカレ2連覇に牽引。「笹山さん(貴哉・現名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)の後の司令塔という責任は重かったですが、力のある下級生たちのおかげもあってなんとか仕事を全うできました」と、控えめに語るが、実は「自分はどんなリーダーをめざし、どんなふうに筑波を牽引していくのか」に悩んだ時期もあった。

「僕は身体能力がある選手とは言えないし、際立った技術があるわけでもない。じゃあ何で勝負できるかと考えたとき、それは『人を動かせるプレー』ではないかと思ったんです」

 今、どのフォーメーションが有効なのか、今、相手は何をしたいと思っているのか、それを冷静に考え、先読みする能力。それが自分の最大の武器ではないかと。

「もっとおおまかに言うと、僕の武器は『自分自身のことをよく知っている』ということだと思います。自分を知り、自分ができる範囲以上のことは無理にはやらない。無理をしてミスをしない」

 もちろん『自分ができる範囲』は常に広げていく必要がある。チームの誰よりも試合のビデオを繰り返し見て、わからないことはすぐに吉田健司監督や笹山に聞きに行った。そこから得た新たな知識から「あ、このプレーはできそうだ。ならばこっちのプレーもできるんじゃないかというようにいろんな発想が生まれてきました」

 その言葉から浮かび上がってくるのは『知将』というイメージだ。だが、意外にも本人には「頭を使ってチームをリードしても、本当の意味でポイントガードとして、あるいはリーダーとしての資質が自分にあるのかどうかはずっと疑問だった」と語る。今大会前に多くの人から「寺園とおまえのリーダーシップ対決が楽しみだ」と言われたことも気持ちのどこかに引っかかっていた。

「それまではそれほど意識はしてなかったんですけど、寺園はあの小さな体からものすごいエネルギーを発散して、体全体で感情を表現しているじゃないですか。そういうのは1年生のころから、いえ、もっと言えば高校生のころから知っていて、ずっとリスペクトしていた部分でもあります。あいつを越えるリーダーシップを自分が発揮できるかどうか、それをだんだん意識するようになりました」

 たどりついた答えは『自分なりの、自分しかできないリーダーシップの取り方』だ。自分には『チーム全体を見る力』がある。それはコートの中だけではなく、日々の練習の中でも同じだ。

 たとえば1年下の馬場雄大と杉浦佑成が入学してきた年のこと。最初の練習からその能力の高さに度肝を抜かれた。試合に出てもいきなり高得点をマークする1年生。「こいつらほんとにすげーなと思いました」

キャリアのある3、4年生たちが結束してチームを引っ張った。来年は1年生の頃から期待されてきた杉浦と馬場が最上級生となる

 しかし、能力の高い下級生が入ってくれば、おのずと弾き出される上級生もいる。生原は注意深くそのようすを見守っていた。だれかが腐ればチームの士気は落ちる。

「普通、ああいうスター選手がいきなり入ってきたら腐る選手も出てくると思うんです。でも、うちはだれも腐らなかった。ひとつには馬場や杉浦の性格の良さもあると思いますが、上級生たちはあいつらの力をちゃんと評価して、同時に自分たちが努力することをやめなかった。僕は今でもそれが筑波のすごいところだと思っています」

 だからこそ、2年連続で『格上』と言われた東海大を破ることができた。あれから1年、自分はチームの成長を実感している。馬場、杉浦はもちろん、自分がケガで不在のとき「おまえがキャプテンになれ」と言い続けたポイントガードの青木保憲も着実に力をつけてきた。それを支える4年生たちの気持ちに揺るぎはない。

「その中で自分はそれぞれのいいところを生かすフォーメーションを選択して、筑波の強みを最大限に引き出してやろうと思いました。それが自分なりの、自分しかできないリーダーシップの取り方なのだと」――それが自分自身で決めた生原の覚悟だった。

 インカレ3年連続優勝という偉業とともに、今季3冠を勝ち得たチームは涙と笑顔が入り混じった大きな歓喜に包まれる。だが、表彰式も終わり、大会のすべてが終了した体育館は思わぬほど静かだ。最後まで取材を受けていた生原に帰り支度を済ませたチームメイトたちが声をかけて行く。「お先~!」と手を振ったのは馬場。「今日は飲みましょう!」と叫んだのは杉浦。「おお、今日は飲むぞ!」生原も負けじと大声で答える。

「ほらね、ああいう明るいやつらなんですよ」そう言って笑った生原の顔にあったのはリーダーとしての重圧と戦い、それに打ち勝ち、今、そこから解放されたキャプテンの清々しい表情だった。
 
 

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