33歳、アテネ・オリンピックを知るベテラン
オリンピックで恩返しを

文/三上 太  写真/相沢清司、小永吉陽子

矢野良子 (180㎝/SF/33歳/トヨタ自動車アンテロープス)

人生最後のオリンピック挑戦
8年前――アテネで決められなかった1本のシュートを私は忘れていない
それだけで今も現役をやっているといっても過言ではない

 矢野良子(トヨタ自動車アンテロープス)が日本代表に戻ってきた。正確な3ポイントシュートを沈めたかと思えば、状況に合わせてインサイドにもぐりこみ、伝家の宝刀・フェイダウェイを決める。その得点感覚、勝負強さはWリーグのなかでも1、2を争う。

 そんな矢野が、4年のブランクを経て、日本代表復帰を果たし、6月25日からトルコ・アンカラでおこなわれるロンドンオリンピック世界最終予選に臨む。アテネオリンピックを経験したベテランは何を思い、どんな気持ちで最終予選に向かうのか。国内最終合宿で彼女の思いを聞いた。

ベテランとして、流れを変えるプレイをしたい!

「自分にとってオリンピック出場はラストチャンス」と意気込みを語る矢野良子

――今回の女子バスケットボール日本代表入りは、矢野選手にとって2008年にスペインでおこなわれたオリンピック世界最終予選(以下、OQT)以来の日本代表入りです。その4年間、日本代表に入っていないわけですが、その4年間はどのように思っていましたか?

私は本当に何も思っていないんです。スペインのOQTの後、自分はもう代表に呼ばれると思っていませんでしたから。

――では逆に、4年ぶりに呼ばれたことについてはどう感じていますか?

それはちょっと…今の時点では言えないですね。言わないほうがいいと思います。ただ日本代表に選ばれることについては光栄に思っていますし、素直に嬉しいです。

――選ばれて嬉しいということは、スペインの後も呼ばれたら行く気持ちはあったと?

スペインのあとですか…私はスペインのあとにトヨタに移籍をしているんですよね。う~ん、どうだろう…チームを移ったときだからちょっとわからないですね。特にトヨタの、丁(海鎰)HCのバスケットだから余計に考えますよね。あのときは結果としてずっとチームにいたから、その年トヨタでしっかりとプレイすることができたと思うし…ただ、もし実際に呼ばれていて、丁HCも『行ってきなさい』と言えば行ったかもしれないけど、自分の気持ちだけでいえば、新しいチームへの移籍と重なっていたし、どうなっていたかわからないですね。

――では質問を変えましょう。スペインのOQTから今回のOQTまでの4年間、矢野選手は何が一番変わったと思いますか?

年を取った(笑)! それだけじゃないかな。年を取って落ち着いた…落ち着いてないですかね(笑)? ただバスケットへの関わり方は変わったように思います。若いときは、言い方が変だけどギラギラするじゃないですか。でも今は必要以上に周りを見るようになりました。

――でも一瞬のギラギラは変わっていません。

それはそうですよ。それがなくなっていたら引退していますから。ただなんていうのかな、若いときって自分がやりたいと思うじゃないですか。今も自分でやろうとする気持ちはあるけど、若い時ほど固執して「自分がやるんだ」とは思わなくなってきました。正直なところ、年を取ってしんどいというのもあるけど、チームプレイをすることでも十分に戦うことができるって思えるから。それはトヨタで丁HCのバスケットをやるようになって、よりチームプレイを重視するようになったからだと思います。

――トヨタ自動車に移籍して、チームプレイで戦うことの重要さをこれまで以上にハッキリと理解できるようになったわけですね。それは日本代表にも通じることだと思いますが、いかがですか?

日本が世界の国々と戦って何で勝つって言えば、やはりチーム力しかないと思います。個人能力や背の高さなどでは勝てないんだから、団結力と、本当に粘っこくやるところで負けないようにしないと…このチームはそこがまだまだ薄いなって感じるところもありますけど。

――そのチームのなかで矢野選手の役割といえば、やはり得点を取ることになるのでしょうか? これまでは大神雄子選手が孤軍奮闘していて、もう少し他のところで得点が欲しい。それこそが矢野選手を招集した一番の要因ではないかとこちらは勝手に見ています。

「日本は決定力不足だ」なんて言われていることが、私には信じられないんです。私の呼ばれなかった4年間、よくそういう話を聞いたけど、でも国内ではみんなバシバシ決めるわけでしょ。だからなんでアジアや世界の大会になると決定力不足って言われるのか、意味がよくわからないんです。

最終合宿では、選手同士で意見を出し合い、確認することが多くなった

――でも実際にチームに入ってみて、そう言われることはわかるでしょう?

そうですね…今回感じたのは、得点についてそこまでの追求をしているコーチ、選手が少ないってことですよね。どうやったら、たとえば自分がノーマークになるかとか、センターがスクリーンをかけてあげるとか、そういう追求の仕方を教える人もいないし、理解しようとする選手も少ないように感じるんです。

――だからこそ矢野選手の得点感覚が必要となります。

もちろん空いたら打っていきますよ。でも今回の日本代表での私は他にできることがあると思っているんです。ディフェンスやリバウンド、ルーズボールっていうのはやっぱりベテランが見せないとみんなも追わない。そういう部分は見て覚えていってもらうしかないから。

――得点も意識しているけど、そういうところも強く意識してプレイしていると。

はい。今回のOQTでは勝つことももちろんだけど、私はそういう部分を若い子たちに一番伝えたいと思っているんです。私も若いころはそんなことをやっていなかったけど(笑)、でもディフェンスのカバー1つを取っても、それは絶対にチームの力になると思うし、ルーズボール1本で流れが変わることもあるから。やっぱり試合の流れを変えることをしたいですよね。特に交替で出ていく選手って流れを変えるために出ていくのだと思うから、そうなるとやっぱりリバウンドやルーズボールが重要になると思うんです。

――どういう起用方法になるかはわかりませんが、矢野選手がベンチから出ることも、これまでの試合を見る限りありそうです。

それは内海(知秀)ヘッドコーチが考えることだから、私はそれに従います。今回は私とテン(山田久美子)が最年長で入っているけど、自分たちベテランの役割っていうのは絶対にあると思うんです。6番手だろうが、7番手だろうが、スタメンだろうが、試合に出ていることに変わりはないから、出た時間を精一杯頑張ろうって。今の若い子たちの身体能力は本当にすごいと思います。でも何で自分がこれまで負けずにやってこられたかと考えたときに、リバウンドとかルーズボールとかそういうところを見せていかないと…そういう些細なところで試合が決まるんだよってところを見せたいと考えています。

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