準優勝――韓国の強化と育成事情
【韓国】高さと多彩さの融合。新しい可能性を秘めた未来の韓国

文・写真/小永吉陽子

決勝で大逆転負けを喫したあと、しばらく落ち込んでいた韓国だが、表彰式では気持ちを切り替えて胸を張り、大声を張り上げて表彰台に立つチームワークの良さを見せた。しかし、司令塔のチョン・ギボム(右から2番目)だけは、敗戦の責任を感じて笑顔は一切なかった

準優勝 韓国 KOREA

勝ち切れなかった二度の中国戦
未完成に終わった黄金世代の未来は始まったばかり

強気な1対1の攻めも、うまい駆け引きも持つクレバーなセンター#15イ・ジョンヒョン。今年、初A代表に選出される

「世界選手権の切符を獲ることと、今回は中国に勝つことが目標。1点でもいいから中国に勝ちたい。そのためのメンバーは揃っている」とキム・ヨンレHCは自信を持って今大会のメンバーを送り出した。それだけの覚悟があったからこそ、決勝戦で残り3秒での大逆転負けにはコーチ、選手ともに茫然として、その場から凍りついて動くことができなかった。

 今大会の韓国は、従来のスピードとシュートの巧さを全面に出したスタイルとは一味違った。高さと多彩な攻めを持ったメンバーは国内では「過去最強U18」との呼び声が高く、2メートル台6人を擁する高さと、これらを操る3人の個性派ガードは、誰が出てきてもそれぞれのカラーで流れを引き寄せることができた。日本と同様、世界では高さで壁にぶち当たっている韓国にとって、新しい可能性を見出している選手層といえた。

 しかし、大会が進んでいくともに欠点も露呈された。勝負がかかった試合では、ほぼ8人で戦っていた主力の蓄積疲労だ。

 準々決勝のフィリピン戦と準決勝のイラン戦ではスロースタートとなって、みずから首を絞めて体力を思いのほか使ってしまった。両国のガツガツと向かってくるフィジカル面に押されてしまったことも苦戦した原因だった。オフェンスの多彩さはどこの国よりも光っていたが、中国と激突した2次リーグ、決勝ともに僅差で勝利を逃してしまったのは、中国よりも少しばかりフィジカルさが足りなかったのと、最後のツメの部分で一瞬だけ気を抜いてしまった差だろうか。

 司令塔はアグレッシブなオフェンスと的確なパスセンスを兼ね備えた#7チョン・ギボム。韓国期待の187㎝の大型ガードで、日本開催のBWB(FIBAとNBAが主催する「バスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズ アジアキャンプ」)ではオールスターゲームMVPに輝いている。#7チョン・ギボムの控え、または2ガードを組むのは、スピードと状況判断力に優れた#6チェ・ソンモ(187㎝)と勝負強い攻撃が魅力の#9ホ・フン(181㎝)。この3人は誰が出ても、特徴を生かしたチームが作れる。ガードのレベルは中国よりも高く、層も厚かった。

 フォワードには柔らかいオフェンス力を持つ#5チェ・ジュニョンと3Pシューターの#4カン・サンジェ。ともに2メートル(韓国の発表によれば202㎝)の高さがあり、チェ・ジュニョンはSGのポジションでオールスター5に選ばれたが、国内では3、4番をこなす選手である。

韓国をリードした司令塔#7チョン・ギボム。パスセンスと攻撃力、高いリーダーシップを兼ね備える

 そして大黒柱といえるのが、キャプテンであり、204㎝の高さを持つ#15イ・ジョンヒョンだ。今夏のオリンピック最終予選に出場したA代表である。ウイングスパンはなんと220㎝。リーチを生かしたリバウンドやブロックショット、果敢に向かう1対1のポストプレイ、フリースローをもらいにいく強い攻めを見せるなど、的確な状況判断力を持つクレバーな選手。パワフルさでは中国のエース#14ワン・ジェリンにかなわないが、スキルの高さではイ・ジョンヒョンのほうが上といえるだろう。

 ただ最後の最後で息切れしてしまったことが課題か。イ・ジョンヒョンは今夏、韓国代表、高校、U18とフル稼働し、体力のすべてを振り絞って戦っていた。残り16.2秒にワン・ジェリンとのエース対決でドライブからバスカンをもらったプレイで3点リードし、ここで決着がついたはずだった。しかし、最後の最後でワン・ジェリンを離して3Pを許してしまったディフェンスだけは気を抜いたとしかいいようがない。

 また、いちばん責任を感じていたのは司令塔のチョン・ギボムだ。残り4分に太ももを打撲して一時ベンチに退いたあと、再度コートに戻ってきたのだが、同点で迎えたラストオフェンスのスローインで痛恨の5秒オーバータイムを取られた。5秒には早すぎるカウントだったとの見方が強かったが、気持ちが切り替えられなかった韓国はここで中国のフォワード、#10ガオ・ションに逆転ショットを許してしまう。残り1分半からはまるで悪夢の時間帯だった。選手たちは表彰式には気持ちを切り替えて笑顔をのぞかせていたが、5秒オーバータイムを取られたチョン・ギボムだけは下を向き、目に悔し涙を浮かべていた。自分のせいだといわんばかりに…。

平日、一日に8時間以上も練習する韓国の名門高
すべては名門大学、KBLに入るための将来への競争

大会中盤から調子が出てきた大型フォワードの#5チェ・ジュニョン。準決勝のイラン戦では38得点と大爆発でチームを窮地から救った

 韓国の負けず嫌いの象徴であり、司令塔のチョン・ギポムに、BWBで来日したときに練習環境について質問をすると、このように語っていた。

「僕の高校はソウルと違って田舎(釜山)の高校だから選手がいないし、環境もよくない。一日10時間くらい練習(個人練習時間を含む)をしないとソウルの学校に追いつけない」

 日本の高校の部活動では、いくら強豪校といえど、ここまでの練習時間は午後まで授業があるかぎり物理的に不可能だ。集中力がない中でやるなら時間的に可能かもしれないが。「この練習量は韓国では普通なのか?」の問いには、「いいえ。多いほうだと思います。僕は個人練習をたくさんします。将来は韓国でいちばんのガードになりたいから」とキッパリ言う。

 都会のソウルっ子であり、大会ベスト5を受賞したイ・ジョンヒョンとチェ・ジュニョンが通う名門・景福高も練習量では負けていない。

「練習は一日8時間くらい。チームで8時間やるときもあれば、個人練習を含めて8時間だったり、それ以上の時間になるときもあります。休みは日曜の午前だけ。自由はあんまりないですけどね」と、大会ベスト5に輝いたチェ・ジュニョンは、過酷な環境にも明るく笑いながら答える。「勉強はいつやっているの?」の問いには「午前中に授業をして、あとは空いた時間とかに勉強をします」

 韓国では少数精鋭のエリートがスポーツの部活動で生き、名門大学への推薦をもらい、最終的にKBL(韓国プロリーグ)で稼ぐ日を夢見る図式なのである。彼らは自分の進むべき人生を受け止めているのだろうか。明るく、人懐っこく答える姿からも、また芯の強さを感じる。

 こうしたスポーツ一色の生活が問題となり、近年の韓国大学バスケ界では文武両道をモットーに掲げるようになったが、高校の段階では改善されていないようだ。今大会、日本のスタッフとしてチームを支えた元炳善コーチ(ウォン・ビョンソン、韓国の名門・中央大時代はシューターとして活躍)の証言によれば、「韓国はいい大学、プロに入るために競争が激しく、個人練習で差がつきます。私も学生時代は毎日4、5時間の個人練習は欠かさなかった」と言う。

 練習に明け暮れるこの環境がいいのか悪いのかはわからない。ただ現段階で言えることは、日本よりも多くの練習量をこなしている事実と、高校の部活生の夢がプロに直結していることだ。日韓は宿命のライバルと言われながらも、日本代表がスタミナでも、スキルでも、ハングリーさでも、韓国に勝てないのには理由がある。そこへ来て、今大会のように2メートル級の高さがある選手が、大学界やその下のカテゴリーにも多数出現している現状は脅威といえる。今大会、“黄金世代” が味わった悔しさの続きは、近い将来とても気になる。