日本がアジアカップで目指すべきもの
戦う姿勢こそが求められる。アジアカップを日本で戦う意義

文・写真/小永吉陽子

2006年から時が止まった6年間――「継承なき日本代表」を終わりにしたい

 アジアカップが9月14日から東京で開幕する。

 代表活動が始まった6月1日、キャプテンに任命された桜井良太は今年度の展望をこのように語った。「結果につながらなかったこれまでの代表活動を経て、今年度の代表活動の意義をどこに見出しているか?」と質問をしたときの答えだ。

「代表活動はもちろん結果も求められるが、新チームになっていきなり優勝という目標よりも、チームが一つになって大会に臨みたい。今までの代表はいい選手が集まっていたと思うが、本当の意味で、最後の最後までチームが一つになって相手にぶつかっていくということが、2006年以降、感じられない試合のほうが多かった。まず、最低限そういうことはないようなチームにしたい。今年の代表はこれからを見据えたメンバーが選ばれたということをしっかりと考えて、これからの代表が強くなるための1年にしていきたいと僕は考えています」

 桜井良太は、2006年に日本で開催された世界選手権の経験者だ。桜井の言葉を借りれば、2006年以降の日本代表は、「最後の最後までチームが一つになって相手にぶつかって戦っていくことが感じられないチーム」だったということ。あれから6年、日本は時が止まったまま。

 相手にぶつかって戦えなかったのには、たくさんの理由がある。足りないスキルに足りないサイズ。それを補うだけの経験の場もないから自信もつかない。2つに別れたトップリーグの存在は日本代表を応援する文化を作ることもできなかった。それらは一度には解決することができない時間を要するもの。しかし代表の活動だけを見た場合、男子代表が低迷している最大の理由は、その場かぎりで終わらせてきた継承も先の展望もない強化体制にある。

 2006年以降、現場を任されたコーチングスタッフたちは、それぞれのやり方で、激変するアジアの中で格闘してきたことは確かだった。

 しかし、大会で結果を出せずに終わると、強化部は次々と新しい体制に変えていくだけで、強化の中身を分析・検証することはなかった。現場と強化部が連動していないから成長もない。強化部そのもの、いや日本のバスケットボール界全体として、激動と化したアジアの現状を肌で認識していれば、たった6年前に世界選手権を開催した国として、ここまで成長が止まることもなかっただろう。今では、2006年の財産である「日の丸を誇りとし、チーム一丸でディフェンスをする」というモットーまでもが尽きてしまい、一からやり直しである。

 世界がものすごいスピードで変化しているように、近年のアジアも激変している。それは2007年、徳島で開催されたアジア選手権を機に始まった。アジアの雄・中国が開催地として北京オリンピックの出場権を持っていたことで、もうひとつの枠を巡ってチケット争奪戦が起こった。日本はその絶好の機会に取り残されて8位、10位と史上最低の順位を下げていった。そればかりか、変わりゆく世界とアジアの流れをホスト国として目の前で見ていたにもかかわらず、何一つ、学んでいなかったのだ。

キャプテンを務める桜井良太。2006年を知る竹内公輔とともに、チームを牽引する立場

 今年から日本代表の指揮を執るのは鈴木貴美一氏。2007年のアジア選手権に続いての再任であり、激変するアジアの渦中にいた張本人である。そして当時は史上最低だった8位の結果に終わっている。なぜ、結果を残せなかった指揮官が再び采配をふるうのか。トーマス・ウィスマン氏の解任理由とあわせて、鈴木秀太強化本部長はこのように理由を語る。

「トーマス・ウィスマンは、現状でいちばんいい選手で代表を組みたいとチームを作った。だから田臥(勇太、リンク栃木)、柏木(真介、アイシン)、木下(博之、パナソニック)など実力ある選手にこだわって、長期的な展望を見据えていなかった。結局、惨敗したのは期待される選手がケガをしたから。先に向けて前進するバスケットではなかった。鈴木ヘッドコーチは、徳島大会では結果を出してないわけだから、惨敗は認めざるを得ない。だけど、今年のアイシンが竹内(公輔)選手などの主力が抜けた中で、今までと違った非常にアグレッシブなバスケットを展開した進歩がある。その考え方や成長を認めて、ぜひ彼にやってほしいとお願いをした」

 そして任命された鈴木ヘッドコーチも、ベテランを主体としてスタミナがもたなかった徳島大会の反省を踏まえ、若手育成と大型化を睨んだメンバーで先を見据えたチームを構成。この方針を強化部が後押しすることになった。

 ただ、強化部の答えには腑に落ちないところがたくさんある。トーマス・ウィスマン前ヘッドコーチは確かにベストメンバーで大会に臨んだが、“ニューカルチャー”と称して、若手からベテランまでを含めた総勢24名で強化合宿を組んでいたはずで、ジョーンズカップにはB代表を送り込み、若手育成も行っていた。そして、勝負は来年の世界選手権予選のはずだった。鈴木ヘッドコーチが若手育成に着手することに異論はないが、こうもチーム作りの方針がコロコロ変われば、誰が指揮官をやっても強化は定着せずに、結果を残せるわけなどない。しかも今回はトーステン・ロイブル氏が主に育成を担当する「アソシエイトヘッドコーチ」の職につき、鈴木ヘッドコーチと「共に戦う」と宣言している。こうした強化策も、ヘッドである鈴木貴美一氏が結果を残せなければ、またも方針は変わってしまうのだろうか。

 この件については、強化部は強気な姿勢で答えている。

「前回のウィスマン時代の強化が失敗したというわけではなく、これは進化したものと考えてほしい。ウィスマン時代にうまくいかなかった部分を今回は修正したうえで、ロイブル氏にアソシエイトヘッドコーチとしてお願いをして、小・中学生の発掘・育成をしてもらうことにしました」と萩原男子強化部長が答えれば、鈴木秀太強化本部長もつけ加えて「トーステンが行う育成の強化は今後も長く続けてもらう」と公言する。

 小・中学生選手の発掘・育成に関しては、ようやく強化部が重い腰を上げたわけで期待をしていきたい。今後は低年齢層の育成から代表へと連携を図る仕組み作りが求められる。これこそ、その場かぎりの強化で終わってはならない。
 
 

アジアカップの目標はベスト4以上。2006年組こそがリーダーシップを取る大会に

5人の大学生がジョーンズカップに参戦し、比江島慎、田中大貴、永吉佑也がアジアカップに出場

 アジアカップは2年に一度催され、優勝国には翌年の「アジア選手権の出場権」が与えられ、(アジアカップ優勝国と、アジア選手権開催国を除く)2位~5位チームが所属するサブゾーンには、それぞれ「アジア選手権の出場枠」が与えられる大会。いってみれば、アジア選手権の出場枠を拡大しながらも、オリンピックや世界選手権に向けて一歩目を踏み出す大会だ。

 来年のアジア選手権開催国は未定だが、仮にも、日本が所属する東アジアサブゾーンから今大会に5位までに入るチームがなければ、来年のアジア選手権の出場権は、もともと東アジアサブゾーンが持っている「2枠」のみとなる。東アジアは中国と韓国が頭一つ抜けており、このままでは、日本はアジア選手権の出場すら危うくなる。若手強化の年ではあるが、今大会の目標はみずからの手で出場枠を拡大することにある。

 2007年の失敗を踏まえて、鈴木ヘッドコーチはこのように目標を語る。

「メンバーの選び方は先につながるように若い選手を選んだということがありますけれど、僕自身の目標は来年のアジア選手権で3位内に入って世界選手権の切符を獲ること。それ以外はないです。そして、今大会はその選んだ若手を強化しながらベスト4以上を目指したい」

 2006年と2007年にアジアと世界の2大大会を引き受けたホスト国でありながら、先につなげることができなかった日本。その6年後にまたもホスト国となった今、二度と同じ過ちは繰り返されてはならない。

 この大会はどこの国も来年に本番を見据えた中で、試行錯誤の選手層を送り出し、来年への準備をする大会だ。日本にとっても若手を育成しながらも、先の展望が見える試合をすることが、このアジアカップを日本開催にした意義につながる。だからこそ、このチームをリードするのは、本気で日の丸を背負っていた時代を知る「2006年組」――桜井良太と竹内公輔であってほしい。これまで、本当の勝負の場面を迎えると逃げ腰になってしまった弱気な姿勢を、この日本の地でチャレンジすることで、再生と成長の大会にしてほしいのだ。

「最後の最後までチームが一つになって相手にぶつかっていく」――桜井が発した言葉は、日本代表ならば当たり前の戦う姿勢。ここまで堕ちてしまったことを認識し、コーチングスタッフも強化部も、そしてもちろんコートに立つ選手も、キャプテンの発した言葉を体現すること。そしてみずからの手で、東アジアサブゾーンの枠を拡大すること。これが、ホスト国である日本がやり遂げなければならない最低限で最大の目標だ。