エースの系譜<1>
『エース』の称号は後からついてくるもの

文・松原貴実  写真/一柳英男

エースの系譜<1>古川孝敏――『エース』の称号は後からついてくるもの

「シュート確率に一喜一憂はしません。
それより大事なのは、自分がいかにアグレッシブにプレーできたかということ」

決勝のイラン戦では、逆転をかけた最後のシュートを2本打った。「大切なのはチャンスをしっかりものにすること。ここ1番のシュートは必ず決めたい」と決意する24歳

 古川孝敏の持ち味は高い身体能力を生かした躍動感あふれるプレーだ。2009年のユニバシアード大会代表メンバーとして世界の舞台を踏んだのは大学4年生のとき。昨年初のA代表入りを果たして東アジア選手権大会に出場すると、今年は新生A代表の一員として8月のウィリアム・ジョーンズカップに参戦した。この大会で圧巻だったのは7/7本の3Pを沈めたヨルダン戦。チャンスとみるや畳み掛けるように連打するシュートで白熱戦を勝ち取る立役者となった。

 兵庫県出身。御影工業高校時代は3年生で初めてインターハイとウインターカップの出場を果たしたが、それぞれ2回戦、1回戦で敗退。全国にその名をとどろかせるべき活躍の場はなかった。

「だけど、バスケットが好きで、もっとうまくなりたくてレベルの高い関東の大学に進みたいと思ってました」

 しかし、関東の大学からのオファーはなし。

「それでもあきらめきれず、恩師の知人を通じて自分の試合のビデオをリクさん(東海大学・陸川章監督)に送ったんです」

 もちろん、陸川監督は今でもそのビデオのことをよく覚えている。

「まずね、第一印象は『おもしろいなぁ』でした。なんか動きがプルンプルンしててね(笑)。この子は伸びそうだなぁという予感がしました」

 入学時、東海大には「ファブ5」と呼ばれた4年生たちがいた。竹内譲次、石崎巧、阿部佑宇、内海慎吾、井上聡人という、いわゆるゴールデンエイジの選手たちだ。

「あんまりレベルが高いので最初はビビりまくっていました(笑)。ついていくのに必死で、練習はとにかく無我夢中でした」

 1年生の春のトーナメントはベンチにも座れなかったが、秋のリーグ戦でベンチ入り、さらにそのリーグ戦の途中からスターティングメンバーに抜擢される。

「スピード出世ですね(笑)。でも、それには理由があるんです。彼はどんなときも100%、120%の力で練習に取り組むんです。サボるということを知らない努力家。そんな毎日の中で力のある上級生たちにもまれ、その上級生たちからいいものをどんどん吸収していきました。その結果、もともと自分が持っていた能力が大きく開花していったように思います」(陸川監督)

アグレッシブなディフェンスが古川の“ブレない”持ち味でもある。イラン戦では、栗原、田中らとともに、エースのサマッド・ニックハ・バハラミを執拗にマーク

 それはまたアイシンに入ってからも同様。ルーキーシーズンは佐古賢一、桜木ジェイアール、柏木真介、網野友雄、竹内公輔といったそうそうたるメンバーに混じって練習を重ね、1年目からスーパーサブとして存在感を示した。主力の引退、移籍で大きく様変わりした昨年はスタートからコートに立ち、JBL準優勝に大きく貢献。3P部門では堂々トップに輝き、トップシューターとして地位も確立させた。

「1年間でここまで成長できる選手も珍しい。持てる力も去ることながら、ここまで伸びたのは本人の努力でしょう。チームで1番練習して、決して妥協しない。普段から努力し、準備をしているからこそ経験を力にできるのだと思います」(アイシン・鈴木貴美一ヘッドコーチ)

 ここでもまた古川を語ることばの中に『努力』という一言があった。そのことについて古川本人は「努力というのかはわかりませんが、人一倍練習することで自分の中に可能性が見えてきたのは確かです。今は練習で100%力を出し切らないと自分自身が満足できないようになってきました。全力で取り組むことが自分のモチベーションにつながっているような気もします」。たとえ体調が万全とは言えない日、シュート確率が悪い日があっても、「それなりの100%はあるはず。たとえば試合でシュートが入らなくても、ディフェンスやアシストやルーズボールやチームに貢献できることは沢山あると思います」

『シュート確率』という点だけについて言えば、今大会の古川の数字には波があった。準決勝のカタール戦では18分出場して15得点(ゴールアベレージ63%)、中国戦では17:38分出場しながら無得点。「自分でも振り幅の大きさは気になっているし、今後の修正点であるとは思っています」

 しかし、先の古川自身のことばを借りれば、プレーには「それなりの100%」がある。シュートに好不調の波があったのとは逆に、古川のアグレッシブなディフェンスは大会を通して一度もブレなかった。中でも印象深いのは準決勝で見せたルーズボールへの執着心だ。

粘りあるプレーで流れを変えることのできる古川は、6番手の選手として役割を果たした

 カタールに3点リードされて迎えた2Q、日本は逆転に成功して逆に5点のリードを奪うがカタールも必死に食らいついてくる。残り2分を切った場面で古川がスティールしようとしたボールがエンドに転がった。そのボールに向かって飛び込み、床に倒れた状態でマイボールにした古川のワンプレー。そこから勢いづいた日本は3連続得点し30-19とカタールを突き放した。記録には残らないワンプレーがゲームの流れを大きく変えることもある。倒れ込みながらもボールを追って突き出した手に、古川の『ブレない100%』を見たような気がした。

「今、自分がエースだとか、次代のエースだとかという意識はありません」と古川は言う。

 自分が考える『エース』とは「オフェンス、ディフェンスともに安定した力でチームを牽引できる存在。そうなるためには点を取るとか取らないとかより、まずしょうもない細かいミスを失くしていくことが先です。それが自分の目下いちばんの課題です」

 だから、シュート確率に一喜一憂はしない。「それより大事なのは一試合を通して自分がどれだけアグレッシブにプレーできたかということ」。それがチームの士気を高め、そこからチャンスは生まれる。そして、肝心なのはそのチャンスをしっかりものにすること。「ここ1番のシュートは必ず決めたい。それが自分の仕事であることはわかっています」

 勝敗を分ける大事な場面で仲間たちから信頼される存在になるためには、「自分の課題をクリアするためにこれからも努力を重ねていくだけ」

 自分が目指す選手像にどれだけ近づけるか、『エース』の称号は後からついてくるものだと思っている。