東海大を優勝に導いたキャプテン
キャプテン狩野祐介が 『2位の男』を返上した日

文/松原貴実  写真/一柳英男  

優勝の瞬間、キャプテン狩野はボールを高く突き上げ、喜びを爆発させた

キャプテン狩野祐介が『2位の男』を返上した日

狩野祐介
(KARINO , Yusuke/東海大#33/4年/184㎝/SG/福岡第一高出身)

東海大vs青山学院大――。
常にライバル視される大学界の黄金カードだ。
そんなライバル関係にありながらも、幾度もあと一歩のところで屈してきた東海大。
だが決してあきらめることなく、常にチャレンジャーとして若きチームをリードしたのが、
4年生で唯一のスタートを務める狩野祐介だ。
東海大を6年ぶり3度目のインカレ制覇に導いたキャプテンの姿は、後輩たちに胸を張れる道のりだった──。
 

一人、コートにうずくまって優勝を噛みしめる姿が、これまでの苦しみを表していた

 優勝の瞬間、手にしたボールを勢いよく上に放った。ベンチから駆け寄ったたくさんの仲間たちに肩を抱かれ、もみくちゃにされ、気がつくと1人コートの真ん中にいた。膝を折り、まるで床にひれ伏すようにうずくまり、東海大キャプテン狩野祐介はただただ泣き続けた。
 
 
「勝った!と思ったとき、身体から一気に力が抜けて立っていられなくなったんです。涙が止まらなくなって、自分でどうすることもできなくて…」

 表彰式後のインタビューで狩野は少し恥ずかしそうにそう語った。涙のあとは満面の笑み。

「たぶん、今までの人生の中で一番うれしかった瞬間だと思います」
 
 
 バスケットをやっていた2人の兄の後を追うようにミニバスのチームに入ったのは小学4年生のとき。少しでもうまくなりたくて体育館にはいつも一番乗りしてシュート練習に励んだ。その努力の成果は着実に実を結び、進んだ春吉中学では全国大会出場こそ叶わなかったが3年時にはジュニアオールスター大会の福岡代表に選出され優勝を果たした。

 だが、それ以来『優勝』からは遠ざかる。進学した強豪・福岡第一高では1年からレギュラー入りし、2年からは主力としてコートに立つが、その年のウインターカップ決勝戦では洛南に敗れ2位、翌年のインターハイ決勝戦では延岡学園に敗れ2位、さらにウインターカップでは前年同様、決勝戦で洛南に敗れ2位に終わった。
 それだけに「大学の舞台で必ず日本一になる」という思いは強かったが、有力選手が揃った東海大の中で、上級生を追い越しレギュラーの座を勝ち取るのは容易いことではなかった。

「やっとスタートで出られたのは3年のリーグ戦からですね。洋平さん(三浦洋平・現富士通)が夏の李相伯杯でケガをして、その代わりに使ってもらいました」

 だが、この年も青山学院大に行く手を阻まれ、リーグ戦もインカレも2位で終了。さらにキャプテンとなった今年の春のトーナメント決勝戦も青学大の前に屈した。

「本当にずっと2位で、『2位の男』とか言われたし、それを返上するためにも優勝したかったです。ものすごく勝ちたかった」
 

勝負強い得点とディフェンスで貢献。特に3ポイントはここぞというところで決まる(写真は準々決勝・日大戦より)

 今年の東海大は下級生主体の若いチーム。キャプテンとして牽引していくためには、「自分が一番頑張るしかないと思いました。自分は生まれ持った才能とかがあるわけではないし、(バスケットが)うまいわけでもなく、努力だけでここまできた選手だから、後輩たちには人一倍頑張る姿を示すことしかできないし、普段の練習でも、夏の合宿でも、きついメニューであればあるほどまず自分が率先してやりました。その背中を見て、後輩たちがついてきてくれればいいと思って。背中で引っ張るキャプテンになろうと、それだけはやり通せた気がします」

 しかし、そんな狩野はリーグ戦の途中で陸川監督から思いがけない一言を告げられる。「スタートにレオ(ベンドラメ礼生)を起用したい。残りの試合はシックスマンとしてチームを支えてほしい」――
 
 ショックだった。やっとの思いでスタートの座を勝ち取り、今年は最上級生として、キャプテンとして『優勝』を目指そうと自分に誓った学生最後の年。

「本当にショックで、2週間ぐらいずっと落ち込んでいました。でも、リクさん(陸川監督)からその言葉を聞いたのは、リーグで大東文化大に敗れ、そのあと日体大に敗れた後だったんですよね。いろいろ考えました。それで、あたりまえだけど一番大事なのはチームが勝つことだと思ったんです。1年生のレオには勢いがあるし、それはチームの勢いにもなる。レオが思い切ってプレーして、ミスしたり行き詰ったときは自分が出ていけばいい。ベンチから出て、悪い流れを断ち切ったり、チームを波に乗せたりするのもすごく大事な仕事だし、それは1年生のレオではなく、4年生の自分の仕事だろうと。そう思ったらようやく気持ちが切り替わって、余計なことは考えず無心でコートに立てるようになりました」

 このリーグ戦でもまた全勝優勝の歓喜に沸く青学大の後ろで2位の無念さを噛み締めることとなったが、狩野の中では何かが変わっていた。

「初心に戻ってバスケットに取り組もう。無心でゴールを目指そうと決めたら、前よりシュートも気持ちよく打てるようになった気がします」

 気持ちの変化は顔つきまでも変えた。

「自分ではわからないけど、周りからはなんか落ち着いた感じになったと言われました(笑)」

 最強のシックスマンとしてチームを支えよう。キャプテンとしてチームを優勝に引っ張っていこう。残されたチャンスはあと一回、インカレの大舞台だけだった。
 

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