トーマス・ウィスマンHCインタビュー
アジアの謎、カタール・バスケットボールの真相

インタビュー・文/宮地陽子  写真/一柳英男

2012年度、カタール代表(アジアカップにて撮影)

トーマス・ウィスマンHCが語る「カタールの真相」

「カタール協会は資金もやる気もある。
この興味深い国で自分が何ができるか
今はとても楽しんでいる」

アジアカップよりカタール代表のヘッドコーチに就任したトーマス・ウィスマン

 中東の国、カタールは、日本と同じアジア枠を戦う相手でありながら、いつも謎に包まれた存在だ。エースのヤシーン・イズマル・ムサは年齢不詳(*1)で、1999年のジュニア世界選手権で平均25点、12.4リバウンドという鮮烈なデビューで世界の舞台に出てきて以来、長年カタールの代表のエースを務めてきた。ロスターの大半は帰化選手だと言われており、去年のアジア選手権では、2011年NBAドラフトでミネソタ・ティンバーウルヴスからドラフト指名されたタンゲイ・ンゴンボ(*2)など数名が、帰化ルール違反という理由で、昨年のアジア選手権に出場することができなかったという出来事もあった。

 もっとも、謎の存在なのも当然かもしれない。何しろ、カタールは国の環境も物事の価値観、考え方も、日本とはまったく違う。同じ物差しで考えてはいけないのだ。たとえば、資源が豊富な割に人口が少ないだけに、他国からの移住者が多い国なのだ。何でも、5年前には80万人だった人口が、今は170万人。そのうち、カタール人は2割ぐらいだという。

 金銭で選手を買う(帰化させる)と批判されることが多いのだが、カタール人からすると、豊富な財源を使って、国に足りないものを補っているという感覚なのだという。スポーツ立国となるために、アフリカなどの国から若いうちに選手を移住させ、カタールの国籍を与え、帰化枠に縛られずに代表に入れるようにする(*3)のは、カタールの人たちからすれば規則の範囲内での、当然の強化というわけだ。

 さて、そんなカタールの男子代表に近頃就任したのが、かつて日本代表ヘッドコーチやリンク栃木ブレックスのヘッドコーチとして、日本のバスケファンにも馴染み深いトーマス・ウィスマンだ。9月に東京都大田区で開催されたアジアカップでも来日し、カタールを3位に導いていた。謎の国の実情を知るまたとない機会ということで、ウィスマン・コーチに、カタールのバスケットボール事情について色々と聞いてみた。

(*1) 2012年アジアカップのロスター表では1980年8月12日生まれの32歳だが、若いときから代表メンバーだったこともあり、嘘か真か、実際はもっと年上ではという噂もある。

(*2) タンゲイ・ンゴンボ(Tanguy Ngombo)。コンゴ出身。現在はカタールの国籍を取得。1989年7月18日生まれ。2010年のスタンコビッチカップやアジア大会で活躍した後、2011年のNBAドラフトでミネソタ・ティンバーウルヴスに2巡目で指名された。その後、実際には1984年生まれではないかという疑惑が浮上し、提出書類の不備から2011年のアジア選手権には出場できなかった。

(*3) 現行のルールでは、16才になる前に国籍を取得した選手は、帰化枠を使用せずに代表ロスター入りすることができる。

【参考記事】
◆2011年アジア選手権総集編レポート――ますますカオスと化したアジアの現状
「大会は、チームは、選手は、いつの時代も生きている」
(2ページ目にカタールの帰化選手問題をレポート)
 
 

アジアカップ代表メンバーに新帰化選手

アジアで衝撃のデビューを飾ったンゴンボ出場不可の真相と
帰化のための国籍取得の謎

2010年アジア競技大会にて鮮烈デビユーしたタンゲイ・ンゴンボ。2011年アジア選手権時には年齢詐称問題により出場できず(写真/小永吉陽子)

──今回のアジアカップにはタンゲイ・ンゴンボがロスター入りしていませんが…。

彼はコンゴにおける汚職の被害者なんだ。彼は1989年に生まれ。オリジナルのパスポートを使ってカタールに来た。19歳の誕生日を迎える前にカタールの国籍、つまりバスケットボール・カタール代表の資格を取った。しかし、彼が(ティンバーウルヴスから)ドラフトされたときに、コンゴの中に、彼に対して金銭を要求する人が出てきて、彼に『もし金を払わなかったら懲らしめる』と言ってきた。そして、唐突に彼の誕生日が1984年だと書かれた偽のパスポートが届いた。

私たちは、すでにそのパスポートが偽物だということを証明している。もし1984年生まれだったとしたら、彼は19歳の誕生日の後にカタール人になったということになる。当時のFIBA規則では19歳が(帰化選手として扱うかどうかの境の)年齢だった。そのため、FIBAは、彼はカタール代表としてプレーすることはできないと言ってきたわけだ。でも、それについてはすでにFIBAに訴えを起こし、パスポートが偽物で、なぜそういったことが起きたかという話を示すことができた。

──帰化枠のトレイ・ジョンソンがカタール代表になったのはどういったいきさつからですか?

私が勧誘した。7月に連れてきた。パスポートを得るのに、時間はかからなかった(笑)

──それも日本とは違うところですね。

日本とは違う。チャールズ・オバノンは11年日本に住んでいながら、日本のパスポートを取ることができなかったからね。

NBA経験者である帰化選手のトレイ・ジョンソン。アジアカップではケガのために大会途中から参戦した

──なぜ、帰化選手としてトレイ・ジョンソンを選んだのでしょうか?

私たちの試合を見たらわかると思うけれど、ガードが必要なんだ。まだタンゲイが入れるかどうかわからなかったときで、得点が必要だと思った。トレイはスコアリング・ガードであり、ポイントガードもできるビッグガードだ。チームの小柄なポイントガードといっしょのときはオフガードとしてもできるし、ボールを持ってポイントガードをすることもできる。トレイはDリーグで得点リーダーだったし、私たちはスコアリング・ガードが必要だった。サイズがあるのもよかった。それで、彼にフェス・アービンを通して連絡を取り、彼と彼の代理人、バートルステイン(マーク・バートルステイン)に、これは彼にとってすばらしい機会だと説得した。

──現在の代表チームの問題点は?

年齢的な問題がある。チームの中心選手はほとんど30代半ばと高齢なんだ。タンゲイはまだ23歳だし、トレイ・ジョンソンが28歳と若い選手も出てきてはいるけれど。

これは、育成システムをうまく発達させることができなかったことが原因だ。カタール人でバスケットボールをしている人はとても少ない。サッカーの人気もあるけれど、とにかくバスケットボールをする人が少ない。新しいFIBAの規則では、16歳の誕生日より前に国籍を取らないといけない(16歳以降だと帰化選手の扱いになる)。だから、15歳からそういった選手を見つけなくてはいけなくなったわけだ。それでも、カタール協会は資金もやる気もある。

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