歯とパフォーマンスの意外な関係性
マウスガードが全国大会にやって来た!

文・写真/青木美帆

中央2選手の口腔内に見える白いものがマウスガード。福岡大学附属大濠は、今大会6選手が使用した

昨年暮れに開催されたウインターカップ2012。
今大会、高校の全国大会で初めて見かけた、マウスガードを着用した選手たち。
なぜ着用したのか? どんな効果があるのか? 当事者たちと専門家に聞いた。

 
 

マウスガードが全国大会にやって来た!――歯とパフォーマンスの意外な関係性――

 東京体育館を離れ、広島県立体育館で開催された今年度のウインターカップ。会場も違えば運営や設営、出店だって異なる中、数人の出場選手にも”ある変化”があったのをご存知だろうか。

 それは口元にある。歯を食いしばった時、声を出した時にチラリと見え隠れるするもの。これ、実は「マウスガード(マウスピース)」と呼ばれるものである。

 マウスピースとは、ボクシングやラグビーなど激しい身体接触を前提とした競技で普及している器具で、歯が折れる、口が切れるといった口腔内のトラブルを防ぐ役割を果たしている。バスケットボールでもNBA選手を始め、JBL、bjリーガーの愛用者が増えたこの器具が、とうとう高校の全国大会にもお目見えしたというわけだ。

■チームで導入した福岡大学附属大濠の談

マウスガードで噛み合わせを調整することによって力を込めやすくなる(写真は福大大濠#14杉浦佑成)

 今大会、目視で確認できたマウスガード着用者は1チームと1人。チーム単位でマウスガードを導入していたのが福岡県予選でライバルの福岡第一を破り、6年ぶりの自力出場を果たした(※1)福岡大学附属大濠(以下、福大大濠)である。

 片峯聡太コーチは導入の理由についてこう話す。

「かかりつけの歯科医と相談して、9月末に導入しました。ソフトバンクホークスやアビスパ福岡の選手も診ているスポーツ歯科の先生で、噛み合わせを調節するのにいいとおっしゃっていました」

 片峯コーチの話にもあるように、マウスピースは近年歯を保護するだけでなく、噛み合わせの調節によるパフォーマンス向上にも役立つとされている。

 本来、歯は、上の歯と下の歯がしっかりと噛み合うようになっているものだが、歯並びなどによって左右どちらかに噛みしめる力が偏ってしまい、その影響で体全体に歪みが生じてバランスを崩すこともある。また、人は力を出そうとするとき奥歯を食いしばるが、左右均等に噛みしめられないことによって本来出せる力が減少することもあるのだ。

 そのような噛み合わせの弊害を少なくするために、福大大濠では両奥歯でしっかりと噛みしめられるように調整したマウスガードを、希望した6人が使用している。「うまく力が入るようになったと、選手たちは言っています」(片峯コーチ)

■個人で導入した山﨑拓(土浦日大)の談

土浦日大の山﨑は負傷箇所の保護のために、上の歯に装着するマウスガードを使用した

 福大大濠の選手以外にも、今大会でマウスガードを使用している選手を見かけた。土浦日本大学の2年生ガード、山﨑拓だ。ただし、装着に至った経緯は異なる。

「ウインターカップの2.3週間前の練習中、相手選手の肘が自分の歯に入ってしまって、歯がズレてしまったんです。その後、コーチと歯医者さんの薦めで使用しました」(山﨑)

 彼は「負傷箇所の保護」という事情ありきでマウスガードを着用した。しかし、その二次的な効果についても認識はあったという。「バランスが良くなってパフォーマンスが上がると聞いていたし、実際に付けてみてもリラックスした感覚がありました。力んでいない感じです」と話している。

 JOCの強化スタッフなどを務めるスポーツドクター・石上惠一氏(東京歯科大学教授、スポーツ歯学研究室主任)によると、噛み合わせに問題があると力がうまく入らなかったり、逆に一点に力が入り過ぎたりすることもあるという。山崎の場合は後者だったのが、マウスピースの着用によって改善されたということだろう。

 大会後は治療のため使用していないが、治療が済んだあとに改めて新しいものを作り直して使用を続けたいと、山﨑は思っている。

■育成世代への普及を願って

 偶然にも、今大会は口腔内のアクシデントが発生した。桜花学園の森田菜奈枝が試合中に転倒し、上あごを骨折する大ケガをしたのだ。そして処置の過程で前歯を数本失っている。

「一般的に顎口腔(※2)領域への外傷の受傷様式は、上あごでは前歯部の破折(※3)や脱臼が多く、下あごでは骨折が多いと言われています。また、衝撃の強さ・方向、衝撃物の弾性や形態によって損傷の部位や程度に差が出ます。遅い速度での打撲は歯周組織(※4)への損傷が大きく、逆に早い速度での打撲は歯の破折が多いようです。マウスガードの使用は顎口腔系への外傷予防からは大変効果的だと思います。さらに、安心感からよりアグレッシブなプレーにつながるとも思います」(石上氏)

 森田のケガがマウスガードによって防げたかは分からない。ただ一生替えの利かない歯を守るため、そしてより良いパフォーマンスを追求するために、ジュニア・ユース世代のバスケット選手にも普及が広まればと思っている。
 
 
※1=福岡県のウインターカップ出場枠は1つだが、福岡第一がインターハイ準優勝になって「高校総体枠」を獲得した年は、県予選の結果が福岡第一優勝、福大大濠準優勝となっても福大大濠が福岡県代表としてウインターカップに出場した
※2=あごと口の中
※3=折れたり割れたりすること
※4=歯茎、歯肉などを含めた歯を支える組織