伊藤達哉(洛南高)
No pain, No gain――失ったものから手に入れたもの

文・写真/青木美帆

尽誠学園戦のラストシーン。伊藤(紺ユニフォーム背番号6)は自分が放った最後のシュートの軌道を追っている

 No pain, No gain. ――失ったものから手に入れたもの――

伊藤達哉(洛南高3年)

10か月に及ぶブランクを経て、今夏コートに帰ってきた洛南高(京都)の3年生ポイントガード、伊藤達哉。
中学時代に全国を制した者として、空白の時間を埋める者として、
準優勝だったインターハイの借りを返す者として。
最後の大会を戦った彼の思いを追った。

 
 
 男子準決勝第二試合、尽誠学園(香川)対洛南(京都)は大接戦の好ゲームとなった。66対63、残り5秒、土壇場で混戦を抜け出したのは尽誠学園だった。

 実は、ここからコート上で起こったことを自分の目できちんと見ていない。カメラを構えながら何を、誰を撮ろうかと迷っていたら試合は終わっていた。結局ロクな写真が撮れていない中、それでも ピンボケした写真にしっかりと残っていた事実がある。

 残り4秒。尽誠学園#4岸貴耶がダメ押しの3ポイントシュートを打つ。しかしシュートは外れる。残り2.7秒。

 リングを大きく弾んだボールがフロアにこぼれ落ちた残り1.4秒。思い思い喜びを爆発させる尽誠学園の選手たち、表情を失った洛南の選手たち。写真を見る限り、この時点でコート上の10人のうち、9人の中で勝敗は決まっていた。ただ、コートに立っている選手の中でたった1人だけは、そう思っていなかったらしい。

 残り1秒、フロアに落ちたボールを目ざとく拾い上げる。遥か後方のゴールを睨み、渾身の力と細心のコントロールで延長戦につなぐロングシュートを投じる。その軌道を、大きく目を見開いて追う。タイムアップのブザーが鳴り響いてもなお、強い願いをたたえた瞳で。

 洛南のポイントガード、伊藤達哉。小数点以下の「今」を、誰より鮮烈に生きていた。

■予期せぬアクシデント 迫られた選択

強さと俊敏さを兼ね備えたドライブは脅威となった

 東京・京北中3年時に全国制覇を達成し、洛南でも1年時からベンチ入り。今大会もドライブ、アシスト、得点と、大いに持ち味を生かして活躍した伊藤だが、最終戦を除きスタメンのポイントガードを務めていたのは下級生の#10森井健太。伊藤はベンチから途中出場する、いわゆる「シックスマン」の選手だった。なぜか。伊藤は高校2年生のときに大きなケガをしており、そのため長く戦列を離れていたのだ。

 2011年11月、右ヒザが突っ張るような違和感を覚えた。病院で離断性骨軟骨炎(りだんせいこつなんこつえん)と診断され、手術。ウインターカップの2日前に退院した。当然のようにウインターカップはエントリーを外れ、その後翌年8月のインターハイまで公式戦に出場していない。ポイントガードはコート上の監督とも呼ばれるポジションで、チームを作る上で最も欠かせない存在。約10か月の長期離脱とあっては、伊藤を主軸に据えるチーム構想は不可能に近かった。「長いケガをしていたので、どうしても後の起用になってしまっただけ。本来はスタートができる力の持ち主」と洛南・吉田裕司コーチも話している。

 ウインターカップが終わってから手術するという選択肢もあったのだが、「(3年生時の)インターハイに間に合わさせたかったので、早めに手術することに決めました」(伊藤)。夢だった東京体育館のメインコートでプレーするチャンスをあきらめてまで(※1)、リハビリに励みながら最後の年に懸けた。

 復帰戦となったインターハイは準優勝。久しぶりの実戦に戸惑いもあったが、流れを変えるシックスマンの大役を、十分に果たした。しかし、復帰直後の5連戦は正直体にこたえた。筋力がまだ回復していない右足をかばいながらプレーし、決勝戦では疲れから足が動かなくなったという。

「ケガしてプレーできなかったぶん人一倍練習して、思いっきりプレーしていきたいと思います」

 冬への決意を新たにした。

■失われた時間を取り戻す日々 新たに築いた武器

3ポイントという大きな武器を手に入れた(写真/一柳英男)

 インターハイ後は当たり負けしない体を作るため、ウエイトトレーニングに積極的に取り組んだ。ベンチプレスの最高記録はセンター陣にも負けない95キロ。細かった体が、3年間で驚くほどたくましくなった。備わった体の強さと持ち前のドリブル技術、機敏さを生かしてゴール下のスキを突き、あわてて手を出したディフェンスからいくつものファウルを奪った。右足の筋力強化も順調に進んだ。

 苦手としていた3ポイントシュートの習得には特に力を入れた。伊藤が今年度のウインターカップまでに出場した7つの全国大会(エントリーを外れた高2のウインターカップは除く)17試合のうち、3ポイント成功数はわずか2本。それが今大会、たったの5試合で6本決めた。

「自分には外のシュートがないって、まわりも分かっていると思う」。おそらく今大会も対戦チームは「ない」と踏んでいただろう。しかし、「あった」。キャッチからセット、リリースまでのモーションに時間がかかるぎこちないシュートだが、確かに入った。

 おかげでプレーの幅が大きく広がった。3ポイントを打つと思わせてドライブでインサイドに切り込む。ディフェンスの注意を引き付けて、マークがゆるんだ仲間にパスを出す。アウトサイドが決まれば、1対1の能力がさらに際立つ。吉田コーチと伊藤が1年時から思い描いていた理想像が、最後の全国大会でようやくかたどられた。

「今大会…なんか入って。ちょっと自信になってきたんで」

 はにかみながら、嬉しそうに話した。
 
 
(※1)ウインターカップは例年東京体育館(東京都)で行われるが、今年度は体育館の改修工事のため広島県立総合体育館(グリーンアリーナ)で開催された。伊藤はケガの回復に時間がかかると聞かされた時点で、高校3年時のウインターカップは東京体育館で行われないということを知っていた
 
 

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