アイシン vs 東芝 
アイシンvs東芝――歴史に残るJBLラストバトル

文/渡辺淳二  写真/一柳英男

旧JBL時代とあわせると、4年ぶり5度目のリーグ制覇を遂げたアイシン

アイシンvs東芝――
歴史に残るJBLラストバトル

2013-14シーズンからNBLとして新たなスタートを切るJBL。
一つの区切りとなる今シーズンのファイナルを制したのは、
レギュラーシーズン首位のアイシンシーホース(以下アイシン)。
昨シーズンの最下位から一気にファイナルへと駆け上がって来た東芝ブレイブサンダース(以下東芝)を
最終戦の末に下し、 3勝2敗で4シーズンぶり5度目の優勝。JBLのラストチャンピオンとしてその名を刻んだ。
 
 

昨年最下位の東芝がファイナルステージに

アイシンの柏木は経験を生かしてゲームを展開し、東芝の篠山は若さで運動量で対抗した

 ディフェンディングチャンピオンを破った充実感をどう表現しようか迷う様子を見せながら、東芝・北卓也ヘッドコーチ(以下HC)が言葉を選んで切り出す。

「1戦目延長。2戦目延長。そして今日(3戦目)も2点差。こういうゲームを昨年のチャンピオンチームを相手にできたことが幸せですし、次のステージに進めることがうれしいです」

 史上稀に見る接戦となった、昨年の覇者・トヨタ自動車アルバルク(以下トヨタ)とのセミファイナル。下馬評は経験値からトヨタ優勢だった。が、レギュラーシーズンは3勝3敗の五分。しかもそのうち4試合を帰化選手、ジュフ・磨々道が欠場した。その時にチームが急成長を遂げていることに東芝は確かな手ごたえをつかんでいたようだ。

「磨々道がいない時の戦い方ができたので、後半の9連勝につながった」(北HC)という。

 今シーズン補強された得点源のファジーカスと辻、そして磨々道に頼るのではなく、チーム全員で戦うスタイルがディフェンディングチャンピオンを乗り越えるというアップセットを巻き起こし、ファイナルステージへと臨んだのである。対するは、セミファイナルで日立サンロッカーズに2連勝と圧倒したアイシンである。

 4月17日。両チームのエース、アイシン・桜木と東芝・ファジーカスとの点の取り合いで始まった1戦目。印象的なシーンの一つは第3ピリオドのアイシン・朝山の連続3ポイント。1本目を決めた直後、朝山は、OSG(現在の浜松・東三河フェニックス)時代のチームメイトである東芝・桑原が速攻からレイアップに持ち込むのをブロックした時に手の甲と体側を強打。ベンチからの試合中断要求をレフェリーが見送る中、体を引きずるようにしてフロントコートに入った朝山。そこにボールが渡る。ゆっくりとしたモーションから放たれた3ポイントが決まり、試合の流れはアイシンへと傾いた。その朝山が振り返る。

アイシンは橋本、喜多川らベンチメンバーが要所でシュートを決めて流れに乗せた。優勝を知らない若手が伸び、まさにチーム一丸でつかんだ勝利だった

「ブロックした時に手から落ちたので、手のひらの感覚がなかったんです。でも指先の感覚はあったから、『打っちゃえ』って感じでした。アドレナリンですかね。ファイナルは普段は起きないことが起こるし、ちょっとしたことでチームが崩れる怖さがある」

 2010年のオールジャパンでも、普段はあまり打たない速攻からの3ポイントを沈めて優勝を引き寄せ、その時にも『打っちゃえ、って感じでした』と表現した朝山。さらにこの試合では第4ピリオドにも、強く印象に残る3ポイントがあった。

 東芝がタイムアウト後、2-3ゾーンディフェンスに切り換える。それを察知してゾーンのギャップから3ポイントを2本立て続けに決めたのが、アイシンの控えのガード・橋本だった。

「相手がゾーンをしてきたら、アウトサイドからシュートを打たないと、インサイドがつまってしまって攻められないから積極的に打て、とジェイアール(桜木)から言われていたんです」

 アイシンが20本中12本と、高確率で3ポイントを決めて緒戦を取る。2戦目以降、東芝はゾーンディフェンスを敷きにくくなるとともに、セミファイナルで吹き荒れた東芝の勢いはいったん弱まった。
 
 

決戦に向けてのキーワード

新人王に輝いた辻。勝負強いシューターで、第4戦では3Pシュートを12本中8本も決めた

 4月18日。2戦目の後半立ち上がり、アイシンのヤングが連続ゴールを決めて10点のリードを奪い、東芝にタイムアウトを取らせる。アイシン連勝のムードを断ち切ったのが、東芝のルーキー・辻だった。得意の3ポイント、そしてアシストで勝負を延長に持ち込むと、最後も3ポイントと、シュートモーションからファジーカスへのアシストに転じた冷静なプレーで星を五分とした。レギュラーシーズンで見せた攻撃姿勢をプレーオフでも貫くルーキーが声を震わせる。

「セミファイナルで延長を経験したことが活かされていると思います。延長に入っても落ち着いてまわりが見えるし、ゲームの流れがわかる。それが楽しいし、勉強になります」

 東芝の司令塔である2年目の篠山も、勢いを取り戻した勝利にニンマリだ。

「昨日(1戦目)はジェイアールにボールを持たれて時間を使われるという重い展開。そうではなく、自分たちのリズムで、走るバスケットにしようと。そのためにディフェンスの間合いをつめた結果、粘って走って勝つことができたというのは、昨日の経験を活かせたと思うし、また一つ大きく自分たちが成長できる勝利になったと思います」
 
 
 4月20日。2戦目に続き走る展開に持ち込もうとする東芝と、ハーフコートでがっぷり四つに組もうとするアイシン。3戦目では両チームの思惑がストレートにコートに反映され、火花を散らした。

 試合序盤から速攻に持ち込む東芝に対しアイシンは第2ピリオド、「際どいファウル」でその勢いを食い止めにかかる。素早くフロントコートにボールを運ぼうとする東芝の足を止めようとしたのがアイシン・橋本だ。

「僕のファウルはあれなんですけど(苦笑)」と自戒しながらも、「相手の勢いを殺すという意味で大切になって来る。相手の流れを断ち切りたいんです」

 そのファウルを、「故意のファウル」だとレフェリーに訴える北HC。だが決して焦ってはいなかった…。

「相手のハードなファウルに対して、うちのメンバーが切れなかった。前半を8点差で終われたことによって、後半もう一度ディフェンスとリバウンドを意識し、走る展開に持ち込めたことが勝因となりました」

 後半開始早々、4本連続で3ポイントを外すアイシンに対し、東芝はファジーカスのオールラウンドの得点で一気に逆転。そしてアイシンのファウルで得たフリースローを辻や栗原が確実に決めて、8年ぶりの優勝に王手をかけたのだ。

スタミナと運動量を全面に出した東芝のディフェンスはアイシンを苦しめた。東芝伝統のチームカラーであるディフェンスは「Change」を目指した今も不変

 8年前――。

 JBLプレーオフ・ファイナルが初めて5回戦3戦先勝方式になった2004-2005シーズン。そのカードがまさに東芝対アイシンだった。スコアラーとして東芝優勝の原動力となったのが現在の北HC。対照的に5戦目に負傷退場し悔しさを味わったのがアイシンの司令塔だった佐古賢一(現・日本代表チームリーダー)だ。彼が第3戦を観戦後、足早に会場を後にしようとする…。が、古巣の敗北にもかかわらず、表情は柔らかい。このファイナルの白熱した展開自体に満足しているかのようでもある。

「東芝のすごいディフェンスがアイシンのプレッシャーになっているように見えます。北がヘッドコーチをしていて、『東芝らしいな~』って感じもすごくしますね。特に勝負所でのトランジション(攻防の切り換え)。北と節政(当時の司令塔)のリズムで展開していた時の強い東芝のようで、懐かしいですよ。当時とだぶって見えます。でも東芝はあっさり勝つタイプではないし、アイシンには地力がある。東芝の粘りを払しょくするくらいの我慢をアイシンができるかどうかですね」

「我慢」という2文字とともにクライマックスへ!
 
 

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