JBA女子ジュニア専任コーチ 萩原美樹子
トランジションの速さが躍進を生んだリオ五輪

PHOTO/fiba.com

オリンピアンよりメッセージ
萩原美樹子
JBA女子ジュニア専任コーチ(アトランタ・オリンピック代表)

トランジションの速さの徹底、扉を叩き続けた選手の思い
すべてがつながったリオ五輪

トランジションの速さを全面に出した
戦い方が世界上位と勝負できている理由

 いよいよアメリカ戦を迎える日本代表。予選ラウンドの戦いを見て、世界のランキング上位国と普通に戦って、普通に勝負をしていることが本当にすごい、と思いながら観戦していました。オリンピックの予選ラウンドで3勝したことは素晴らしいことです。

 昨年のアジア選手権決勝の中国戦からそうでしたが、トランジションバスケが全面的に出て、日本のいいところを押し出していることが、ランキング上位に勝負ができて躍進した理由ではないでしょうか。平均身長177㎝の小さな日本は“脚”を使うしかない。このチームは脚を使った戦いができるだけのメンバーが集まっていて、その中で193㎝あって運動神経のいい渡嘉敷選手もいる。各ポジションのピースが揃っていて、トランジションを全面に出して走った結果だと思います。

 予選ラウンドで終わることと、決勝トーナメントに進出するのでは雲泥の差。これまでの日本にとって予選ラウンド突破の壁は大きいもので、私たちの時代(1990年代)はヨーロッパのチームと競っては負け、競っては負けを繰り返していた時でした。当時のヘッドコーチの中川さん(文一、トヨタ紡織)からは「小さいからといって、競っていい勝負ができたことで満足したらダメだ」としつこく言われてきました。その頃から「いい試合をするだけでなく、勝ち越して決勝トーナメントを目指すんだ」という思いでずっと戦ってきました。

 壁を突破できたのは94年のことでした。94年のアジア選手権(仙台)の予選ラウンドで粘って中国に勝ち、その年の世界選手権(オーストラリア)では順位決定戦ですが韓国に大勝し、秋のアジア競技大会(広島)では決勝に進出して韓国といい勝負をして準優勝しました。94年を境に、アジアの中でずっと勝てなかった中国と韓国に勝ったり負けたりするようになり、三つ巴時代が始まりました。その頃から自信をつけていったのです。

 また毎年、ハンガリー国際などのヨーロッパ遠征を繰り返し、何回か一回、ヨーロッパのチームに勝つようになり、そうやって世界のチームと対戦することで勝ち方を覚えていきました。

 そうして迎えた96年のアトランタ・オリンピック。中国との接戦を制し、カナダにオーバータイムの末に勝って決勝トーナメント進出を果たしますが、そこから見えた景色は今までとは違いました。ようやく“世界のお尻”が見えてきた気がしました。
 
先輩たちが扉を叩き続けた努力がつながった
アメリカ相手に挑戦することを楽しんできてほしい

1996年アトランタ・オリンピック代表メンバー(写真提供/大山妙子)

 私たちも今回と同じく準々決勝でアメリカと対戦しました。3万5千人収容のジョージアドームで、バスケットボール発祥の地で、アメリカを相手に、アメリカのお客さんの大声援の中で戦うことは、すっごくうれしくて、気持ちのいいものでした。

 目標は予選ラウンドで最低2勝して、決勝トーナメントに進み、順位決定戦に勝って6位入賞すること。順位決定戦に照準をあわせていたので、アメリカと対戦してもモチベーションを切らすことなく、思い切りぶつかっていけました。私たちの時はとても「メダルを目指す」とは言えず、そこが今のチームほうがすごいところ。前回のオリンピックから順位決定戦はなくなってしまったのですが、このチームこそ、最後の最後まで戦って、順位をつけさせたいチームですね。

 今回の躍進には、アンダーカテゴリーの強化の成果も要因にあると思っています。私たちの頃は中国と韓国にはなかなか勝てずに苦手意識がありましたが、今の世代はアンダーカテゴリーで中国や韓国に勝っている世代。とくに、渡嘉敷選手や間宮選手、長岡選手なんかがそうですね。そうした経験の積み重ねが生きています。

 そして何より、これまでオリンピックに出たくても出られなかった先輩たちの思いや努力がつながってここまできたのでは、と思います。

 大神雄子選手、石川幸子選手はみずから海外参戦してレベルアップを図っていましたし、三谷藍選手、矢野良子選手はアジア予選やOQTに何度も出て、チャレンジし続け、今も現役を続けています。オリンピックに出たくて、出たくて、出たくて、扉を叩き続けた世代がいた。その先輩たちの背中をずっと見てきた吉田選手。そんな彼女が今大会に背負っているものの大きさをとても感じます。

 12年ぶりのオリンピック。今の学生や若い選手たちはオリンピックで日本のバスケットボールが活躍する姿を見たことがありません。今回の躍進がとてもいい刺激になっています。アメリカはとても強く、死角のないチーム。そんなチームに一人一人が最高のプレーをして、思い切り戦ってきてください。アメリカ相手に挑戦することを楽しんできてほしい。
 
 
萩原美樹子 HAGIWARA Mikiko(JBA女子ジュニア専任コーチ)
アトランタ五輪代表メンバー/180㎝のオールラウンドなフォワードとして、ジャパンエナジー(現JX-ENEOS)と日本代表のポイントゲッターとして10年間にわたり活躍。アトランタ五輪では得点ランク5位(17.75点)。97年に発足したWNBAに日本人第一号として入団。2004年にはアテネ五輪アシスタントコーチを務め、早稲田大とユニバーシアード代表ヘッドコーチを経て、現在はJBA女子ジュニア専任コーチに就任。アンダーカテゴリーの育成に努める。今夏はU23を率いてジョーンズカップに出場。