グループラウンド:グループC
フラテロHCが語るウクライナの初ワールドカップと将来

文・写真/宮地陽子  YOKO MIYAJI

ウクライナの構築は2011年から始まった。この時、ビデオ・コーディネイターとして、日本人の吉本泰輔(写真右端)が携わっていた(写真は2011年ヨーロッパ選手権。写真提供・吉本泰輔)

FIBAワールドカップ@スペイン通信<5>

予選ラウンドで1点に泣いたウクライナ。
フラテロHCが語る初のワールドカップと将来

スペイン通信の第5弾は、グループラウンドのグループCから「ウクライナ」にスポットを当てたい。
母国が内戦状態という厳しい中、ウクライナは初のワールドカップで2勝をあげたが
ゴールアベレージのわずかな差で決勝トーナメントへ進めなかった。
このウクライナの代表チームの強化に携わっていた日本人スタッフの紹介と
フラテロHCに激闘の舞台でどんな手応えをつかんだのかを聞いた。
 

ウクライナ代表チームの強化を支えた一人の日本人の存在  

 グループラウンドが終わり、数日前にグループCとグループDの決勝トーナメントが行われるバルセロナに移動してきた。この記事を書くのが遅れている間に、すでに決勝トーナメントは始まっているのだが、最後にこの舞台に来ることができなかったチームについて書いておきたい。

 グループCからトーナメントに出場できなかったのは、フィンランドとウクライナの2ヶ国。最終日の勝敗次第でどのチームにも可能性が残されるという混戦で、ウクライナは2勝しながら、同成績だったニュージーランドとドミニカ共和国との得失点のゴール・アベレージでわずか1.2%(得点にして1点)及ばずに、バルセロナに来ることができなかったのだ。

 内戦状態の母国を離れて、平和なスペインでのコート上での戦い、母国にいる家族や友人たちを気遣う気持ちなど、選手たちは(少なくとも英語では)ほとんど口にすることはなかった。ウクライナを率いるマイク・フラテロ・ヘッドコーチも、選手たちを気遣いながらも、「(母国の状況については)選手たちの頭の中にいつもある。私が毎日話すことではない」と言う。

世界基準のプログラムを作り、ウクライナを初出場に導いたマイク・フラテロHC

 さて、話をウクライナのバスケットボールのことに戻そう。ウクライナ代表の現ヘッドコーチはNBAファンにとってはお馴染み、元NBAコーチで現在はNBA試合の解説者をしているマイク・フラテロだ。

 元はといえば、2011年のヨーロッパ選手権前、アレキサンダー・ボルコフ(フラテロがヘッドコーチをしていたときのアトランタ・ホークスでプレー)から代表チームのヘッドコーチとなって助けてほしいと頼まれたのが始まりだった。ボルコフは現在ウクライナのバスケットボール連盟の会長で、さらにウクライナ議会の議員という立場なのだ。フラテロはそれ以来、ボルコフとともにウクライナの代表プログラムを築き上げてきた。ただ単に雇われコーチとして夏の大会の時期だけチームを指揮するだけではなく、代表チームとしてのあり方、練習スカウティング、さらには服装、移動に至るまで、すべてのことで世界基準のプログラムを作ってきた。

 実は、その最初の年には日本人も一人、尽力している。現在、シカゴ・ブルズでビデオ・コーディネイターをしている吉本泰輔だ。吉本によると、ウクライナではそれまで、ビデオを使って相手をスカウティングすることもなかったらしく、最初は機材をすべてそろえるところから始めたという。

 フラテロ・コーチに吉本がウクライナ代表の構築にどう貢献したか聞いてみた。

「ダイス(吉本)は4年前(3年前)に私たちがやったことのとても重要な部分を担っていた。彼にはとても感謝している。彼は、ビデオの仕事の面でチームを支え、試合の準備をしてくれた」(フラテロ)

 今回、FIBAワールドカップに初出場を果たしたウクライナの代表強化プログラムを作り上げたときに、日本人が貢献していたというのは、考えてみたらすごいことではないだろうか。
 

「欲しいものを手に入れるには、これまで以上に努力しなくてはいけない」(フラテロHC)

 吉本はこの夏が終わった後にシカゴ・ブルズにビデオ・コーディネイターとして加わった。やはりウクライナのコーチ陣の一人として働いていたエド・ピンクニーがブルズのアシスタント・コーチに就いて吉本を推薦。ブルズから問い合わせの連絡を受けたフラテロ・コーチは、ブルズに吉本を推薦したといういきさつがある。吉本にとっても、NBA入りのきっかけとなる貴重な経験だったわけだ。

 ブルズでの仕事を得た吉本は、2012年以降はウクライナ代表の仕事はしていない。この夏もシカゴに残り、9月末から始まるブルズのトレーニングキャンプの準備をしているという。それでも、3年前とほぼ同じメンバーが残っていて、フラテロがコーチするウクライナのチームのことは気になるようで、毎試合チェックし、陰ながら応援をしていたという。

「陰ながら」だった理由? 今のボス(上司)、ブルズのヘッドコーチのトム・シボドーがアメリカ代表のアシスタント・コーチをしているからだ。

「コーチ・ティブス(シボドー)も僕がウクライナを応援していることは知っていると思います(笑)。アメリカの次に応援しているといつも話しています」(吉本)

 今回のFIBAワールドカップでは僅か1点に泣き、グループラウンド敗退となったウクライナ。フラテロは「バスケットボールの神は、私たちに大会を味あわせてくれたものの、次のラウンドには進んでほしくなかったようだ」と悔しがった。「1点足りずに次のラウンドに進めなかったということは、すべてのポゼッション、フリースロー、相手にチャンスを与えないようにディフェンス・リバウンドを取ることがいかに大事かということだ」

 それでも、フラテロはウクライナ代表の将来は明るいという。

「まだナショナルチームでプレーしていないような(有望な)選手もいる。これからは木の枝を伸ばしていくとき。私たち(ウクライナ)にはチャンスがある。これを維持していくことができると思う。ただ欲しいものを手に入れるには、これまで以上に努力しなくてはいけない」

 フラテロは、ウクライナでのコーチを続けるかどうかはまだ決まっていないと言っていたが、ボルコフは、フラテロ・コーチが今後もウクライナの代表ヘッドコーチを継続することを希望しているという。
 
 
◆FIBA大会公式サイト