スポーツセミナー
サンダーが地元に愛されるチームになった理由

オクラホマシティ・サンダーが、わずか数年でファン獲得に成功した理由を探る

ワシントン州シアトルを拠点としていたシアトル・スーパーソニックが、2007年にオクラホマ州オクラホマシティに移転、オクラホマシティ・サンダーにチーム名を変更した。2008-09シーズンから地域に根をおろして4シーズン目ではあるが、すっかり人気の高いチームに成長した。地元の企業からの協力も得られ、経営的にも成功している。今年はウェスタンカンファレンス2位通過でプレイオフに進出するなど、チーム作りも上手くいっている。
 任意団体スポーツソリューションの招きで、元サンダーの地域貢献部局マネジャーとして地域密着を成功させてファン拡大に貢献したワイワナ・モンゴメリーが3月に来日。「学習支援で地域課題をチャンスに変えるマーケティング」と題したスポーツセミナーで、サンダーがファン獲得のために行った活動について語ってくれた。ここでは、そのセミナーの内容を紹介する。

取材/永塚和志

bjのファイナル進出の常連になった琉球ゴールデンキングス。毎年沖縄から、多くのブースターが東京の有明に駆けつける。沖縄も地域に根付いたチームの成功例の一つ(写真/高野 洋)

学習支援を通じた地域活動で
ブランド力を上げる
3月13日、東京の有楽町駅から徒歩1分のビルの15階に上がると、平日にも関わらず想像していたよりも多くの人が参加していたのには驚いた。正直言って、もう少しこじんまりした集まりだと思っていたからだ。

彼らの目的は「学習支援で地域課題をチャンスに変えるマーケティング」と題されたスポーツセミナーであった。このセミナーの講師を務めたのは元NBA・オクラホマシティ・サンダーでコミュニティリレーションズ・マネージャー(地域貢献部局マネージャー)を務めたワイワナ・モンゴメリー氏という女性である。NBAの実地経験を持つ人の球団運営に関する話を聞く貴重な機会のために多数の人たちが集ったのは、あるいはそれほど驚くことではないのかもしれない(実際はセミナーは、同じ内容のものが2度行われたが、筆者が行かなかった1度目は土曜日開催だった)。

サンダーというチームは、NBAファンなら当然知っているだろうが、まだオクラホマに根を下ろしてからまだ4シーズン目だ。西海岸のシアトルにあったスーパーソニックスが2008-09シーズンに移転してきたのである。

さてサンダーのように他の場所からの移転も含めて新たにプロチームができた際、その球団にとっての差し迫っての重要な課題は何であろうか? それは、いかにしてその地域一帯にファンベースを獲得し、チームのブランドを上げていくかであろう。そのためにはゲームを含めたアリーナでのサービスだけでは十分ではない。コートを離れた時のオフコートの活動を、どれだけ効果的に戦略的に行うかが鍵である。

そのオフコートの活動として、アメリカのメジャーなスポーツ球団は例外なくさまざまな、独自の地域活動を行っている。モンゴメリー氏の在籍時のサンダーの場合は、今回のセミナーのテーマである学習支援を通じての活動に力を入れていたようだ。むろん、それをマーケティングにもつなげるという意図もあるが、むしろ肝要なのはチームブランドを上げていくことだった。

社会問題解決を目指した
3つ地域貢献プログラム

セミナーでモンゴメリー氏が紹介してくれたプログラムについて触れていこう。プログラムは以下の3つである。

■Read to Achieve (リード・トゥ・アチーブ)
オクラホマ市周辺地域の小学生を対象とした読書プログラムで、子どもたちに読書時間を競わせるのだそうだ。ちなみにオクラホマ州は、識字率の低さが社会問題にもなっている。これはスーパーソニックス時代から行われてきたもので、同チーム以外でもWNBAのシアトル・ストームやNBAの下部リーグであるNBDLなどにも広がっていったという。

■Black History Heroes Challenge (ブラックヒストリー・ヒーローズ・チャレンジ)
これは米国の歴史を語る上で欠かすことのできない黒人の歴史等について知ってもらう機会を与えるもので、黒人選手と地域センターを訪れたりもする。黒人の歴史に関する知識を競うコンテストもある。対象は5歳から18歳までで、コンテストの上位者にはサンダーのホームゲームの無料チケットが進呈され、ハーフタイムには表彰されるのである。

■Thunder Fit (サンダー・フィット)
米国では、カロリーの高い食べ物が日本に比べて多く、加えて車社会であるために、運動不足から健康が損なわれがちであり、それが社会問題にもなっている。そのため健康面に対する取り組みとして、地域の各種学校や集会所を訪れて、フィットネスや栄養面の指導を施している。

上記のような地域活動プログラムには当然、サンダーの選手が参加する。モンゴメリー氏によれば、NBAでは各選手はこういった地域貢献活動に年間に最低でも10回は参加することを義務付けているそうだが、サンダーの選手は平均18から20回ほど参加しているという。余談だが、サンダーでは選手獲得の際に、バスケットボールの才能だけではなく、人間性も重視しているという。

モンゴメリー氏は、こうした子どもや若者に向けたコミュニティープログラムを行うことによって、チームをより身近に感じてくれるようなファンベースを広げることにつながるのだと説明した。彼女はそうしたファンをloyal(ロイヤル)、つまり「忠実な」という言葉を使って表現したが、忠実なファンとはチームが勝っているときだけではなく、沈んでいるときでもサポートしてくれる、そういう人たちのことをいう。そして、上記のような地域学習プログラムを行うことは、将来のファンベースの拡大にもつながるから、これは中長期的に考えれば自球団に対する投資と考えられるのだ。

しかし一方で、こうした活動は単純にファン層の拡大だけを狙っているというでもない。子どもを対象とした教育的プロクラムを継続的に開くことによって、チームのブランド自体をアップさせることが、あるいはファンのパイを広げること以上に重要な意義を持っているのかもしれない。実際に、「地域学習プログラムを実施することで、地元を中心とした企業からの積極的なパートナーシップを受けやすくなる効果がある」と彼女は説明した。具体的には、2年ほど前のデータだとNBA全体の約8割のスポンサーが地域活動がらみだというから、効果は「てきめん」だ。

ただし、こうした地域活動もむやみやたらに行えばいいというものではない。地域とチーム双方を“WIN–WIN”(ウイン‐ウイン)の状況に置くべく、中長期的な目線で戦略的に考えねばならないのはすでに触れた。

言うまでもなく、NBAは広大な米国全土に分布するリーグであり、人種構成や経済状況、文化などさまざまな地域特性があるから、その土地に合った活動を考えなければならないのだ。そうした事柄を勘案した戦略を立てる必要がある。

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