スポーツセミナー
サンダーが地元に愛されるチームになった理由

球団関係者だけではなく、
多く人たちに共同体として関わってもらう

戦略的に地域活動プログラムを進める上で重要なステップを、モンゴメリー氏は大きく4つに分けて説明した。

第1ステップは、まずテーマを決めることである。地域ごとに特性は異なるから、そこでは何が適しているのかを知っておく必要がある。そして地域のどこでプログラムを行うかを決める。サンダーの場合は、球団のチケット販売局と協力しつつ、より多くのファンがいると思われるオクラホマシティおよび周辺10都市をターゲットにした。それらの都市にある既存のNPOや各種イベントと協力しながら、地域で何が求められているか(受け入れられるか)を調べ、テーマを決めるのである。何も新たにプログラムを構築する必要はない。例えば上述の読書プログラム(Read to Achieve)はまったくのゼロから始めたというよりは、サンダーと学校双方の協力のもとで、読書時間を伸ばすことを試みたという方が正しいだろう。

以上のようにテーマが決まったら、次にするのは、そのプログラムに関わるあらゆる人たち(ステークホルダー)を確実に取り込む(引き入れる)ことである。つまり、サンダーならサンダーという球団の職員や選手だけが一方的にプログラムを遂行するのではなく、その他の関係者も共同体として関わってもらうことが肝要なのである。

再び読書プログラムの例を挙げると、学校の校長や先生方とのコミュニケーションを密にし、プログラムの浸透を進めてもらったり、児童の読書の進捗度などを教えてもらったりするわけである。あるいは、同様のプログラム等を進めているNPOや企業との協力も積極的に働きかけるのもいい。地域活動にもある程度のお金はかかるわけだから、球団の既存のスポンサーにも同様に働きかけるのもまた大切なのだ。

そして、実際にプログラムを実行に移すわけであるが、上記の2つのステップをこなしてようやくここにたどりつけるわけである。そして、その後は全体の評価をする。よりよい形で活動を進めるためには当然必要なステップである。ちなみにサンダーが訪れた地域の学校の数は、移転初年度の2008-09シーズンが80校で、翌年の2009-10シーズンには約3倍の243校にまで増えた。読書プログラムコンテストへの参加児童も9000人から1万4000人にまで増加。サンダーがスクールバスを改造して作った移動図書館「Rolling Thunder(ローリング・サンダー)」などのために寄付された本の数も同様に増えている。

こうした中長期的な戦略を立てることで、それぞれの地域活動プログラムをより効果的に行うことができる。
モンゴメリー氏が強調するのは以下のこと である。

まず1点目は、その地域でのニーズを認識すること。その場合、所属選手がより参加したいと思うような内容のものであれば、なお良い。

次に、学校やイベントを訪れる際には選手だけにスポットライトが当たるのではなく、チームまたは球団全体が参加していることを前面に出すこと。チームのブランド力を上げるためだ。モンゴメリー氏によれば、オクラホマにはチーム一のスターであるケビン・デュラントだけが写ったビルボード(広告板)はなく、あるとすればサンダーというチームを前面に出したものだそうだ。

そして、やるからには最初が肝心だ。なぜならプログラム初年度に成功を収めれば翌年以降も継続がしやすいし、スポンサーに対するインパクトも大きくなるからである。

戦略的な地域活動が
ファン獲得の鍵

昨季、東日本大震災で活動停止に追い込まれた仙台89ERS(bj)のブースターが、チーム存続を訴えるためにファイナルが開催されている有明に集結した。仙台もまた、地域に愛されているチームの一つ(写真/星野志保)

さて、今回モンゴメリー氏が紹介してくれたサンダーの地域活動プログラムが、日本のスポーツ球団でもそのままうまくいくとは限るまい。実際に、セミナーの際も参加者からは「こういうプログラムはうまくいくのもNBAという”天下の紋所”があるからではないか」「日本ではバスケットボールリーグはまだマイナーでそこで同じようには語れないのではないか」という声もあった。それに対してモンゴメリー氏は、「マイナーかメジャーであるかは関係なく、地道な努力によっていかにチームを地域で認知してもらうかでブランド力は上がっていく」と答えていた。米国人であるモンゴメリー氏はおそらく日本のバスケットボール事情、あるいはスポーツ全般の状況やその経済状況、あるいはいかにスポーツが一般に普及しているかといったことに詳しくないであろうから、「そうは言ってもやはりそれほど簡単ではないでしょう?」と疑ってしまうのが自然である。

一方で、同じ地域活動をするにしても戦略的に行わなければならないことはヒントになるのではないだろうか。サンダーは移転以降、毎シーズンホームゲームの平均観客数がほぼ満員の1万8000人以上を記録している。その中でオフコートの地域活動がどれだけ効果を発揮しているかはわからない。年々チームが実力を上げてきていることもあるだろう。しかし一つ言えるのは、日本でもとりわけbjリーグなどではいわゆる「田舎」にあるチームの方がより健闘しているというケースも見受けられるが、やはりオクラホマという「田舎」で成功しているサンダーの例を見ると、地方都市でも(あるいは地方都市の方が、と言ったほうが良いだろうか)、やりようによってはチャンスがあるということだ。また、上で述べたように、NBAでは選手に年間10回程度の地域活動を義務づけていることを考えると、球団単位だけではなくリーグにも参考になることがあるかもしれない。

出席者にとって今回のセミナーがどれほど役に立ったかは定かではない。しかし、実際にバスケットボール、あるいはその他のスポーツ団体に携わる人たちが、どれほど自らの球団や組織で還元できるかはわからないが、少なくともスポーツ大国である米国の事例を聞いて、セミナーに出席していた人たちすべてに確認したわけではないが、どうやらすでにバスケットボールを含めた国内のスポーツチームで働く人やあるいは将来スポーツに関わる仕事を希望すると思われる若い人たちは、少なからず刺激を受けたのではないだろうか。

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